ギャルバン!!! 2nd The Re:Bandz!!!!
フラッシュの洪水がアタシ達を襲う。
タイトなダークグレーのスーツに身を包んだ小塚マリコを先頭に、リンナが選んだおそろいの赤いレザージャケットとミニスカートの衣装を着たアタシと、リンナが続いて歩く。
今日の会見の進行役の仲川ユキコはアタシ達三人が座ったのを確認すると小塚マリコと視線を合わせてうなずく。
サクリファイスのライブの時も何度もこうやって音を作っていったに違いない。
「それでは始めさせていただきます。まず、弊社の小塚マリコより皆様にご挨拶をさせていただきます」
他のスタッフからマイクを受け取り立ち上がる小塚マリコ。
真っ直ぐ前を見据えると、深々と一礼した。
「この度はこのような私事で会見を開くことになり、お忙しい皆様にご足労いただき、まことに感謝しております」
そのセリフの途中にも思い出したようにフラッシュが瞬く。
「早速本題ですが、今回の週刊誌の記事に関してはお手元にあります資料をご覧いただきたいと思います」
記者に促した資料はアタシ達の手元にもあった。
そこには、住所など個人情報は隠されていたが父親の戸籍謄本(こせきとうほん)写しのコピーと、小塚マリコが父親と出会ってから結婚しアタシを出産したあとにすぐ離婚した経緯が簡潔ながら書き連ねてあった。
戸籍を見たのは初めてだった。
アタシ自身、母親がいないことを気にしていなかったし、何よりきっと父親が母親のことを気にしないよう気を配っていてくれたからだと思う。
「まずご覧いただきたいのは戸籍謄本の写しですが、相倉マサユキさんよりお貸しいただきました。今、隣にいる相倉エルは間違いなく戸籍上でも血縁上でも私、小塚マリコの娘であるとここにご報告させていただきます」
たくさんのカメラのレンズが小塚マリコを捉え、フラッシュの光を浴びせた。
この前のレーベル発表の記者会見とは違う空気にアタシもリンナも飲み込まれてしまっていたが、小塚マリコだけは毅然(きぜん)と前を向いていた。
「週刊スパイシーの牧山内です」
そんな中、手を挙げたのはあの雑誌記者だった。
「はい。どうぞ」
「この件について、なぜ今まで黙っていたんですか? もっと早い段階で公表すれば対バンでCDリリースなんて企画をやらずにお子さんのバンドをデビューさせられたんじゃないですか?」
「確か、親の七光りバンドとそちらの週刊誌では銘打っていらっしゃいましたね。―――そこですよ」
小塚マリコの瞳が鋭く記者を見ていた。
「公表すれば当然のことながら同じ状況になったはずです。ですから、公表せずに私からは機会を与えるのみにしました。コンテストなどで他のバンドから刺激を受けてもらったこともありました」
ふと彼女は微笑んだ。
「私自身、エルがバンドを組むことは想定してましたが、モデルとして頭角を現しているリンナを、サクリファイスの陸の娘をボーカルに迎え入れるなんて思ってもみなかった。だから、彼女がバンドを再結成した時に私はバンドからリンナを外すように進言しました。けれどエルはリンナを外すことはなく、四人でバンドがやりたいと言ってきました」
誰もが小塚マリコの声と、その話に聞き入っていた。
「もし仮に、エルがリンナ抜きの三人でバンドをやると言っていれば、アナタが仰るように公表するかは別として私の権限でデビューさせていたかもしれません。でもこの子は私と違って、自分で乗り越えるべき『壁』を作って自分の力で乗り越えちゃう子なんです」
前を見ていた母親が視線を落としてアタシを見た。
「自分で『壁』にぶつかって、とことん落ち込んで、またはい上がってくる。そんな強い子に育ってくれて感謝しています」
彼女の、母親の、小塚マリコの目が潤んでいた。
「そばでちゃんと見守ってあげられなくてごめんね。今までさみしい思いをさせてごめんね。それから、産まれてきてくれてありがとう」
タイトなダークグレーのスーツに身を包んだ小塚マリコを先頭に、リンナが選んだおそろいの赤いレザージャケットとミニスカートの衣装を着たアタシと、リンナが続いて歩く。
今日の会見の進行役の仲川ユキコはアタシ達三人が座ったのを確認すると小塚マリコと視線を合わせてうなずく。
サクリファイスのライブの時も何度もこうやって音を作っていったに違いない。
「それでは始めさせていただきます。まず、弊社の小塚マリコより皆様にご挨拶をさせていただきます」
他のスタッフからマイクを受け取り立ち上がる小塚マリコ。
真っ直ぐ前を見据えると、深々と一礼した。
「この度はこのような私事で会見を開くことになり、お忙しい皆様にご足労いただき、まことに感謝しております」
そのセリフの途中にも思い出したようにフラッシュが瞬く。
「早速本題ですが、今回の週刊誌の記事に関してはお手元にあります資料をご覧いただきたいと思います」
記者に促した資料はアタシ達の手元にもあった。
そこには、住所など個人情報は隠されていたが父親の戸籍謄本(こせきとうほん)写しのコピーと、小塚マリコが父親と出会ってから結婚しアタシを出産したあとにすぐ離婚した経緯が簡潔ながら書き連ねてあった。
戸籍を見たのは初めてだった。
アタシ自身、母親がいないことを気にしていなかったし、何よりきっと父親が母親のことを気にしないよう気を配っていてくれたからだと思う。
「まずご覧いただきたいのは戸籍謄本の写しですが、相倉マサユキさんよりお貸しいただきました。今、隣にいる相倉エルは間違いなく戸籍上でも血縁上でも私、小塚マリコの娘であるとここにご報告させていただきます」
たくさんのカメラのレンズが小塚マリコを捉え、フラッシュの光を浴びせた。
この前のレーベル発表の記者会見とは違う空気にアタシもリンナも飲み込まれてしまっていたが、小塚マリコだけは毅然(きぜん)と前を向いていた。
「週刊スパイシーの牧山内です」
そんな中、手を挙げたのはあの雑誌記者だった。
「はい。どうぞ」
「この件について、なぜ今まで黙っていたんですか? もっと早い段階で公表すれば対バンでCDリリースなんて企画をやらずにお子さんのバンドをデビューさせられたんじゃないですか?」
「確か、親の七光りバンドとそちらの週刊誌では銘打っていらっしゃいましたね。―――そこですよ」
小塚マリコの瞳が鋭く記者を見ていた。
「公表すれば当然のことながら同じ状況になったはずです。ですから、公表せずに私からは機会を与えるのみにしました。コンテストなどで他のバンドから刺激を受けてもらったこともありました」
ふと彼女は微笑んだ。
「私自身、エルがバンドを組むことは想定してましたが、モデルとして頭角を現しているリンナを、サクリファイスの陸の娘をボーカルに迎え入れるなんて思ってもみなかった。だから、彼女がバンドを再結成した時に私はバンドからリンナを外すように進言しました。けれどエルはリンナを外すことはなく、四人でバンドがやりたいと言ってきました」
誰もが小塚マリコの声と、その話に聞き入っていた。
「もし仮に、エルがリンナ抜きの三人でバンドをやると言っていれば、アナタが仰るように公表するかは別として私の権限でデビューさせていたかもしれません。でもこの子は私と違って、自分で乗り越えるべき『壁』を作って自分の力で乗り越えちゃう子なんです」
前を見ていた母親が視線を落としてアタシを見た。
「自分で『壁』にぶつかって、とことん落ち込んで、またはい上がってくる。そんな強い子に育ってくれて感謝しています」
彼女の、母親の、小塚マリコの目が潤んでいた。
「そばでちゃんと見守ってあげられなくてごめんね。今までさみしい思いをさせてごめんね。それから、産まれてきてくれてありがとう」