王子様は囚われ王女に恋をする
「捕虜だというなら
自分の立場が分かっているな?」

アリシアはビクッと体を強張らせる。

彼女に近づくと
カイルはその細い顎をつかんで上を向かせた。

「なっ…」

「捕虜がどういうものなのか分かっているな?」

「離してっ」

もがく細い手首を抑えると、その瞳の奥まで見つめる。

「主の命令は絶対だ。必ず従ってもらう」

悔しさのためか白い肌を赤く染めたアリシアは目に涙を浮かべていた。

「…あなたなんて大嫌いっ」

その瞬間にヒールの先で足を思い切り踏まれた。

「…っ」

ひるんだ隙に手から逃れたアリシアは
そのまま、きびすを返した。

「お話が終わったなら失礼いたします!」

そう言うと走るように広間を出ていく。

「カイル様、大丈夫ですか?」

ブラッドが心配そうに声をかけてくる。

「ああ、たいしたことない」

泣きそうな顔を思い出して
カイルは溜め息が出た。

「本当のことをお話してはどうですか?」

ブラッドの言葉に首を横に振る。

「今は何を言っても信じないだろう。
それに分からないことが多すぎる。
しばらく事情は伏せておくんだ」

「それにしてもあんな言い方をしなくても。
これ以上嫌われたいんですか?」

ブラッドの言葉にカイルは苦笑する。

「さすがに『大嫌い』はこたえたな」

踏まれた足はその日、一日中痛んだ。

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