王子様は囚われ王女に恋をする
「カイル様もいればとっても楽しいのに。
お仕事でお城にいないんだって」

ふとタチアナが漏らした「カイル」の名前に
アリシアは動きを止めた。

「今日から1週間ほど公務で戻らないそうですよ」

ナターシャがアリシアに言った。

「そうですか…」

「カイル様に早く会いたいな」

アリシアの髪を三つ編みにしながらいうタチアナは
本当にカイル王子に会いたい様子だった。

「…タチアナはカイル王子が好き?」

「うん、大好き!」

アリシアの言葉にタチアナは満面の笑顔でうなずく。

「カイル様はいつも遊んでくれるの。
とってもかっこいいし、とってもやさしいもん。
アリシア様もカイル様が好きでしょ?」

「…そうね」

タチアナは無邪気に聞いただけなのに
アリシアは即答ができなかった。

そんなアリシアの様子に
ナターシャは気づいていた。

タチアナからカイル王子の名前が出てから
アリシアの表情が硬くなったのだ。

先日店に来た時のカイルとアリシアは
どこか遠慮し合いながらも楽しそうだった。

それなのに今はカイルの名前が出るだけで
アリシアの笑顔がくもってしまう。

(これが理由ね)

ナターシャは、昨日突然ブラッドから使いが来た理由を
なんとなく察した。

使いの内容は、城へ滞在して
アリシアの話し相手になってほしいというものだった。

しかもブラッドからの使いということは
カイルの直々の頼みであることを意味していた。

乳母をやめて城から離れたあと
カイルからこんな頼みごとをされたのは初めてで
ナターシャはさっそく城へ駆けつけたというわけだ。

(アリシア様、こんなにやつれて…)

かわいそうなくらいに細くなってしまったアリシアを見て
ナターシャは彼女のために食事を作ろうと心に決めた。
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