失恋ショコラ【短】
この時、あたしはまだ何も知らなかった。


『ヒロインのモデルにしたい女がいるから』


篠原が口にしたそのモデルが、ずっと“脇役にしかなれなかった自分(アタシ)”だと言う事も…。


この新作が今までの彼の作品には無かった、“ほぼノンフィクション”だと言う事も…。


それを知ったあたしが卒倒しそうになるのは、まだもう少しだけ先の話。


そして…


この作品が世に送り出されるのは、次の冬が訪れる頃の事…。


今はまだ何も知らないあたしは、微かに残るほろ苦いチョコと篠原との情事の余韻に、時間を掛けてゆっくりと侵食されていくのだった――。





             END.


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