絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 寺山はそこで区切り、沈黙になる。
「あ、私そろそろ行かなきゃ……」
 時計を見ながらテーブルを片づけにはいるが、彼は何も言わない。
 香月はもう一度寺山との会話をトレースしながら、スタッフルームを後にした。
 香月の中では、大貫との会話よりも寺山との会話の方が考えさせられた。寺山との関係は、特に良くもなく、悪くもなく。時々、数人での飲み会に誘われたりもするが、行ったり、行かなかったり。
 個人的なメールは時たまあるが、電話は全くない。
 あれ以後、寺山の気持ちに関しても会話したことはない。
 自分は意識しすぎているのだろうか……。
 遠くにいる宮下の姿を見つけて、思う。
 好きだと言ってくれる、宮下も、寺山も。
 そこには、付き合ってみたいという気持ちもあるにはある。
 だけど、今は、今の同僚の関係でいい。
 なぜなら、気持ちがどちらにも向かないから。
 ……榊のせい?
 まだ心の中で完全に榊を忘れられたわけではないから……だから?
 もし、仮に、榊のことを、もう二度と、ロンドンに会いに行かないと決めてしまったのなら、誰かと一緒にデートをして、体をゆだねることができるのだろうか……。
 愛することが、できる……?
「香月?」
 レジカウンター内にぼーっと突っ立っている香月に話しかけて来るのは、いつも芯がぶれていない、心の友人西野。
「私、……仕事辞めようかなあ……」
 何気なく発した一言に、
「え――――――!!?」
 その辺り中に大声が響き渡り、数人の客がこちらを見た。
「ちょっ、何大声……!」
「ってえ、マジ……!?」
 2人はとりあえずカウンター内にしゃがんで話しを続ける。
「やまあ、今なんとなく、わずらわしいなぁって思って」
「待て、今日話しを聞いてやる」
「いや別に……」
 話すほどのこともないんだけどなあ……。
 そのまま西野は接客に戻ってしまい、続きを言いそびれる。……ま、いいか、何か食事でも、奢ってもらおう。 
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