絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「……」
 男に、自分のことを調べられていると知った香月は
「どうして私のことを調べているんですか? リュウという人はどんな人なんですか?」
「……」
 男はその質問を無視したのか、それとも答えを探していたのか、しばらくの沈黙になる。今度はどんな質問をしようか考えていたところに男の携帯電話が鳴り、すぐにドアのロックを解除した。
「どうだ?」
「大人しくしています。奴と会ったのは今回が2度目だと」
「……」
 会話はそこくらいしか聞き取れず後はずっと小声で、すぐにメガネの男は出て行く。
 代わりに、今入ってきたばかりの男がベッドに腰掛けた。
 さっきの男と同じくらいの体つきだが、こちらの方が身分が上らしい。
 スーツでキメ込んだ男は、オールバックから少し前髪をたらし、こちらも30半ばか、落ち着いたきれながの目が印象的だった。
「お前の身柄と大事な権利書を交換する」
「え?」
「人質だ」
「……大事な権利書……? そんな、私はそんな、ただの知り合いです! そんな、人質にされたって、交換になんか、応じませんよ!」
「お前が人質に適していると判断した結果だ」
「……人質に適している……」
 香月は必死で頭を回転させようとセリフを復唱する。
「奴はなかなか心を割らないからな。しかしお前には興味を抱いている」
「そ、そんなことないですよ! だって、話したことだってほとんどないし……」
「車を貰ったろう?」
「……」
「キーケースについている紋章……」
「紋章……?」
 全く思い出せない。キーには最初からキーケースがつけられていて、そこに、ロゴみたいな模様があったような気がするが、何かのブランドのマークだとしか考えていなかった。
「あれは奴の物だという証だ。ただのプレゼントならそこまでしない」
「……」
「奴に好かれたのが運のつきだったな」
「……」
 まさかリュウが自分にそれほど好意を寄せているなど考えもしなかった香月は改めて事の大きさに後悔する。
「私は……あの人の物になるつもりなんてないし……」
「ただ遊んでいるだけだと?」
「遊んでいるも何も! 今日だって、車の……プレゼントを貰ったからには来ないといけないと思っただけであって……」
「BMに惑わされたか」
 男は少し笑う。
「……車、欲しかったし……」
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