絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「えー……うーん、……結構自然光を使ってる建物って素敵だと思いますね」
 何にも浮かばなくて、ただ格好つけようと、つい雑誌のままのようなセリフを抜かしてしまう。
「じゃあ、それにしましょう」
「えっ……」
 松設計事務所社長、と自己紹介した正面に座っている男は、メガネ越しににっこりと笑う。
「悩んでたんですよ、どういうコンセプトでいこうかって」
 隣で笹井が笑いを堪えて付け加えた。
「あの、駅前のビルは自然光たっぷりのビルに仕上げますね、なるべく」
「えっ、いやっ、あの」
 言葉に詰まって佐伯を見たが、佐伯はおかしそうに松を見ている。
「はあ……」
 調子の良いイケメン長身の男……。自分で事務所構えてるくらいだし、お金も十分にあるのだろう。
 そんな男だからって特に興味はない。むしろそのブランドなどで固められたような身のこなしが嫌いなくらいだ。
 なのに、頭に残って消えないのが、「駅前のビルは自然光たっぷりのビルに仕上げますね」。自分の何気ない一言があの、大きなビルになる……。
 想像もつかない松の力に、憧れない、と言えばウソになる。
「ねえ、一回行ってみたらどうです?」
 佐伯の声にしばらく無言になる。夕方のオープンカフェで、2人は今昼間の反省会をだらだら繰り返していた。今日は高羽に会わないことを祈る。
「うーん……」
「わ、本当に迷ってるんだ。ちょっと驚き」
「え、そう?」
「うんだって、今まで結構お店とかで言われても知らん振りだったじゃないですか」
「えー? ……なんか知ってるの?」
「なんかってゆーかあ、依田さんとか?」
「えっ? 何のこと?」
「またまたあ」
「え、知らない知らない」
「えー!? じゃあただの噂なのかな……」
「どんな?」
「うーんと、依田さんが先輩のことを好きだっていう」
「知らない。噂じゃない?」
「それでえらく永作さんがショックを受けてたんですよ」
「え゛! そうだったの? 早く言ってよ!」
「いや、依田さんが自分で言ってるものだと思ってたから……」
「そんなの噂! 全然知らないよ!」
「えー、そうだったんですかあ」
「そうそう。大体依田さんなんて全然眼中にないし」
「あはは。あとはー、寺山さん」
「ああ、あれはね……。うん、確かに。まあ、今は保留みたいな感じなのかなあ……」
「え゛、そうなんですか?」
「いや、私的には特に付き合いたいとか全然思ってないんだけどさ、年下だし。だけどまあ、待ってますって言われちゃって、そのまま」
「えー、もったいない! 年くらいいいじゃないですか!」
「うーん……、いや、あんまりもったいないとも思わなかったし……」
「すんごい人気ですよ、若い人たちに」
「うーん、私大人っぽい方が好きなのよねー」
「それで松さんですか」
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