絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 正直に認めれば、少し気分が楽になる。そうだ、自分は車が欲しかったんだから仕方ない。それでたまたまそそのかされてしまったのだ。
ピリリリリリリリ……
 突然の大きな電子音に驚く。
 男の携帯の着信音であった。
 男はこちらをちらと見ながらも外に出て行ってしまう。
 香月はチャンスだと思った。実はさきほどから隣のリビングのフルーツ盛りの中にナイフが入っていないのか疑っていたのであった。
 誰もいなくなり、思い切ってベッドから降りると、両足ジャンプしながら隣の部屋へ入る。
 大丈夫、これが見つかっても自分は殺されることはない。
 あぁ、見事フルーツの中の小さなナイフを発見する。それをうまく使ってまず腕の紐を切る。危ない、少しすべると手を切りそうだ。
 扉が開き、誰かが入って来るかもしれないと思うと、手が震えてなかなかナイフが使えない。
 結局一本紐を切るのにしばらく時間がかかったが、手が自由になると、足の紐はすぐに切れる。
 さて、その後が問題だ。船にはベランダがない。従って部屋の窓から逃げるのは無理だ。
 逃げる……どこへ?
 もうリュウのところしかない。その権利書の件がどうなっているのか知らないが、今自分の身柄を完全に保護してくれるのは、好意を抱いてくれているらしいリュウしかいない。
 深呼吸して、静かに部屋のドアを開ける。音をたてないように、ゆっくりと。
 足……。
 最初に見えたのは、人の足の靴の裏だった。
 扉を開けて、よくよく見る。なぜか知らないがすぐ側に知らない男が倒れていた。びくともしない。
 もしかして、死んで……る?
 香月は倒れた男に足首をつかまれる妄想を振り払うように一気にダッシュした。
 全く場所が分からないのでとりあえず図面を探すことにする。階段の踊り場に……確かあった気がする。その階だけの見取り図ならどこかにあったが、それでは役に立たない。全体の図が必要だ。
 しかし、全体図を見つけたとして、リュウがどこにいるのかは全く不明。あ、そうか、携帯!
 
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