絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「え―、全然知りませんでした……、知っててもやるのは嫌ですけど。私なんかフリーで本当に今助かってます。どこにも行きたくないですよ」
「あ、吉川店長はどう?」
「ああ……、最近は普通かなあ。あんまり関わらないようにしてます」
「それも大変だな」
「うーん……、私、正直香西副店長も苦手なんですよね……」
「え、あそう。たまにいるな、気が合わない人。まあ、独特の人だからな」
「あ、そうなんですか。それ聞いてちょっと安心したかな」
「玉越はよく合ってたみたいだけどな、あぁいう、オープンな人が合ってたんじゃないかな」
「オープンな人……」
「香月はそういう……正面から会話する人、苦手だろう?」
「そうですね……」
 そういう意味では、宮下も正面から突っ込んできた男である。
 捕らえ方を間違えて一人、赤面。
 その後も他愛ない話は延々と続いた。
「そういえば、ここに来る途中、レイジさんと会ってお茶したんですけど」
 デザートのゼリーを少しずつ切り崩しながら、話題を変える。
「あぁ……」
 小さな角のゼリーはすぐになくなった。
「宮下店長」
「うん?」
 彼はとっくにゼリーを2口で食べ終えて、どこともなしに、視線をさまよわせている。
「私、今日、宮下店長と一緒に食事がしたいと思いました」
「……うん……」
「……」
 だから何と言おう……。
 今更、俯き、頭で言葉を考え始めても遅い。
「そうか……良かった。ずっと黙ってはきたけど、あの日、香月に告白をしてから、香月がどんな思いで仕事をしてきたのか、ずっと気になってた」
 視線を上げる勇気はなかったが、彼は多分こちらを見ている。
「そう……でしたか……」
「うん……、いけない気持ちだとは思ってはいない。だが、タイミングが悪いことは自覚していた」
「……」
 納得のいく言葉に関心。
「だけどすぐに本社に移動になったし、こうやってまた、食事に誘ってもらえるようになったんだから……良かったかな」
「あの、あのとき聞いたかもしれません。けど、もう一度聞いてもいいですか?」
「うん」
 顔を上げて、相手の目を確認した。その視線は、仕事とはまた違い、異質でまっすぐとしていて。
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