絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 流れに任せて言ったが、一番ずるい一言であることは自覚していた。
「その時は……その時。その時考える」
 自分のずるさを見抜かれたようで、視線をオレンジジュースへと移し、静かに息を整える。
「でも私……忘れることができたら、変われると思う」
「もっと時間が経てば、忘れられるよ。過去のことなんて、年をとればだんだん思い出せなくなる」
 涙は出なかった。今はまだ、泣くときではない。
「私は、その……宮下店長に甘えてもいいのでしょうか?」
 単純な一言。そしてその答えが、全ての答え。
「俺がそうしろって言ってるんだから」
 声が弾んでいるのに気づいて顔を見る。彼は確かに笑っていた。
「忘れられなかったら、忘れられなかった時。
 だけど、ちゃんと香月のこと、見ていくから」
 イマイチ納得はいかない。
「それなりに自信があるんだよ」
 目を合わせると彼はまっすぐこちらを見据えていた。
「香月の気持ちを変えられるっていう、自信が」



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