絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「今、休暇中なの?」
『うん、明日まで休み』
「えっ、明日!?」
『うんそう』
「明日……待って。明日……、えっと、時差は何時間だったかしら?」
『9時間』
「ということは……待って、全然分からない」
『何が?』
「えっと、今からロンドンに行ってもしばらく会えるかしら」
『また……そんなことを』
「お願い。今行きたいの、今じゃないと絶対後悔する」
『どうして?』
「どうしても、行ったら話すわ。お願い、どうしても、今なの、今しかないの」
『……いいけど、飛行機の空きがあるかどうか……』
「……そうだけど」
『待って、見てみる』
 背後で雑音がし、椅子がきしむ音がする。
「ごめんね……、でも、本当なの」
『何も嘘だと思ってないよ』
「うん、ありがとう……」
『えっと、今そっちは10時くらい?』
「うんそう」
『10時45分発があるけど、それは無理だな……』
「待って、ここから空港まで車で15分だから、それに乗るわ」
『そんな急がなくても、朝の便で来ても……』
「いいの、それに乗るからお願い!」
『うん、空きがいくつかあるからそれ抑えとく。とりあえずは』
「うん、大丈夫。じゃあきるね。ロンドン着いたら電話する」
『あぁ……』
 彼が切るより前に切る。とにかくまずタクシーを呼び、用意する物をすぐに決める。洋服一着セットと、コンタクトの液とか、メガネとか、ざっと大きめのバックにつめると、服を着替えてバタンとドアを開けた。
「ごめん、今からロンドン行く!」
誰の顔も見ず、玄関を飛び出しタクシーに乗り込む。
 今行かなければ、今行かなければ、きっと後悔する。




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