絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 その、意思は今でも変わっていない。
 短くなったタバコをダストボックスでもみ消し、最後の一息を窓の外に吐き出した。
 頭をクリアにしておく。それが彼女と会う時の、いつもの自分なのである。
 空港に到着したのと、飛行機が着陸したのはほぼ同時だった。少し急ぎ足でロビーへと急ぐ。彼女は英語がほとんど喋れない。いや、苦手意識で喋ろうとしないだけだ。本気になれば、どうにかなるぐらいの語学はあるはず。
 分かっているのに、慌てて人で溢れるロビーを見渡す。何色の服を着ているかが問題じゃない。格好ではない、彼女のオーラ、そうだ、それが正しい。彼女の顔を見れば、その下にどんな服を着ていたかなんて見る余裕がない。
 それくらい、その表情に引き寄せられる。
 ある程度近づいてから向こうから手を振った。そんなことしなくても、ちゃんとそのずっと前からそこにいることに気がついている。
「おはよ」
 彼女は上機嫌でにっこりと笑う。
「おはよう」
 返しながら、そのキャリーバックを取る。
「良かった、間に合って。電車と違って飛行機は待ってはくれないわよね」
「電車でも待ってはくれないよ」
 可笑しくて、笑う。
 頭一つ分小さい彼女は、すぐ隣に並んで歩く。
「久司の家に行きたいわ」
 大人びたその言い方で、少し緊張しているのが分かる。
「……」
「大切な話がしたいの」
「……」
「ねえ、いいでしょ?」
 上目遣いのその大きな瞳に映っているのは、自分。彼女が欲しているのは、自分。
 気づくと立ち止まっていた。それくらい、返答に迷った。
「駄目だ」
 正直に言うべきか、迷う。
「どうして?」
 そう聞かれることは百も承知していた。
「……彼女がいるんだ」
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