絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
それは浮気ではない
香月が欠勤をしているということが分かったのは偶然であった。たまたま、東都シティ本店に電話をかける用事があり、香西の手があいてないのなら、香月でも、という思いで「じゃぁ、香月はあいてる?」と電話口に出た女性従業員に聞いた。
「香月さん、今日は朝からお休みしてます」
『……朝から?』
「理由は何か知りませんけど……」
『え、今日出勤なのに休んでるってこと?』
「はい」
今月の彼女のシフトを自分はまだ知らない。たいていは月終わりに来月のシフトが張り出されているのでもう彼女自身は分かっているはずだが、あまり気にかけていなかった宮下は、今日彼女が出勤であり、しかも欠勤していることに驚いていた。
そういえば、昨日は電話もメールもしなかった。
すぐに携帯のデータを確認する。連絡をとったのは、一昨日の夜。昨日は徹夜で作業をしていたせいもあって、連絡をとりそびれていた。
しかし、そんなことが問題ではない。
すぐに彼女の携帯に電話をかけるが、電源が入っていないか電波が届かないというメッセージが流れる。
風邪でもひいて寝込んでるくらいなら、構わないのだが……。
思考を切り替えて、一旦デスクに向かう。
……本当に、風邪程度のことなのか……?
疑問は更に膨らみ、しばらく仕事をしているふりをして、パソコンの画面を眺めた。
そしてゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋の隅に盛り上げているファイルの中から一つを選んで、ドアを出る。
向かうは、人事室。真っ直ぐ廊下を歩いて右を曲がればもうすぐそこだ。
「失礼します」
人事課はいつ来ても平和だ。誰も取り乱すことなく仕事をしているし、空気が穏やかである。
「真籐さん、ちょっと」
奥から二番目の椅子に座っていた真籐の背後に近づくと、宮下は小声で話しかけた。
「あ……はい」
真籐も何事かと驚いた表情を見せたが、すぐに立ち、後についてきてくれる。衝立の奥にあるソファの隣のキャビネットの前まで行くと、宮下は真籐の顔を見た。
「香月、休んでますよね?」
「え? と、香月愛さんですか?」
「そう、連絡をとりたいんだけど、電源が入ってないし、無断欠勤してるみたいな……」
「あ、いや、無断というわけではないです。僕がちゃんと会社には連絡してます。理由は、急用のため海外滞在、ですよ……」
「滞在?」
真籐が2人の関係をどう思っているのか分からないだけに、この驚きをどう表現しようか、微妙な表情になる。
「……ロンドンに行くって。突然」
「ロンドン?」
「ええ……」
「香月さん、今日は朝からお休みしてます」
『……朝から?』
「理由は何か知りませんけど……」
『え、今日出勤なのに休んでるってこと?』
「はい」
今月の彼女のシフトを自分はまだ知らない。たいていは月終わりに来月のシフトが張り出されているのでもう彼女自身は分かっているはずだが、あまり気にかけていなかった宮下は、今日彼女が出勤であり、しかも欠勤していることに驚いていた。
そういえば、昨日は電話もメールもしなかった。
すぐに携帯のデータを確認する。連絡をとったのは、一昨日の夜。昨日は徹夜で作業をしていたせいもあって、連絡をとりそびれていた。
しかし、そんなことが問題ではない。
すぐに彼女の携帯に電話をかけるが、電源が入っていないか電波が届かないというメッセージが流れる。
風邪でもひいて寝込んでるくらいなら、構わないのだが……。
思考を切り替えて、一旦デスクに向かう。
……本当に、風邪程度のことなのか……?
疑問は更に膨らみ、しばらく仕事をしているふりをして、パソコンの画面を眺めた。
そしてゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋の隅に盛り上げているファイルの中から一つを選んで、ドアを出る。
向かうは、人事室。真っ直ぐ廊下を歩いて右を曲がればもうすぐそこだ。
「失礼します」
人事課はいつ来ても平和だ。誰も取り乱すことなく仕事をしているし、空気が穏やかである。
「真籐さん、ちょっと」
奥から二番目の椅子に座っていた真籐の背後に近づくと、宮下は小声で話しかけた。
「あ……はい」
真籐も何事かと驚いた表情を見せたが、すぐに立ち、後についてきてくれる。衝立の奥にあるソファの隣のキャビネットの前まで行くと、宮下は真籐の顔を見た。
「香月、休んでますよね?」
「え? と、香月愛さんですか?」
「そう、連絡をとりたいんだけど、電源が入ってないし、無断欠勤してるみたいな……」
「あ、いや、無断というわけではないです。僕がちゃんと会社には連絡してます。理由は、急用のため海外滞在、ですよ……」
「滞在?」
真籐が2人の関係をどう思っているのか分からないだけに、この驚きをどう表現しようか、微妙な表情になる。
「……ロンドンに行くって。突然」
「ロンドン?」
「ええ……」