絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 ああ、彼は全てを知っているのだ……。
 真籐が会社にロンドンに行ったという理由を出したのだろう。旅行ということにでもしたのだろうか……。
 突然旅行……吉川はどう思っただろう。
 そう思いながらも、とりあえず、宮下に何か、返信を。
「……」
 彼が会うことを望んでいるのなら、会えばいい。
『 件名  帰りました。
      どこで会いましょうか。できれば、家がいいのですが』
 打ってみて、思う。いつもと変わりないメールだ。
 2度読んで送信。この応えで間違っていないはず。
 とりあえず、もう少し寝よう。携帯を着信音が鳴るようにしておけば、連絡があれば目を覚ますだろうし。
 2日間、ほとんど眠れていない。
 明日の朝まで、もう少し寝よう……。
 ピリリリリリリ、ピリリリリリリ……
 突然の電子音に、心臓がどきりとなる。ディスプレイを見てみると、「宮下店長」とあった。メールを読んで、すぐに電話をしてきたのだ。時刻は午後5時。まだ仕事は終わっていないだろう、休憩中か?
「……はい」
 3回コールを聞いてから、ようやく返事をする。
『……、おかえり、心配した』
「ごめんなさい……、携帯、家に忘れてて……」
『うん、聞いた。真籐さんから……色々』
「……うん……、……」
『今は? 何してた?』
「今? ……、寝てた。いや、起きてたけど」
『疲れた?』
「うん、あんまり寝てない」
『……今日、会えるかな』
「……、うん」
『家まで行こうか?』
「……ううん、今日家族いるから。私が行く」
『大丈夫? 疲れてない?』
「うん、平気」
 彼にここまで優しくされておいて、何が不満?
『じゃあ、今日はもう上がる』
「え!? 大丈夫なの?」
『うん、急ぎの仕事は終わってるし、5時過ぎてるから』
「へー、本社って5時過ぎたら帰っていいんだ……」
『いやまあ、そういうわけじゃないけど、たまにはな……帰るよ。迎えに行こうか?』
「え、うん。えーと、分かった。着替えとくから……」
『着いたら、電話する』
「うんごめん、ありがとう」
 顔を見てちゃんと話をするつもりだ。
 彼は大人。私は……子供。
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