絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 その答え様で、図星だったことが分かる。
「すねてなんか……ない、私、全然宮下店長のことなんか、考えてない……」
 その投げ捨てられた言葉に対応する言葉が一瞬、全く思いつかなかったが、ここで沈黙になってたまるかと、次の言葉をがむしゃらに出した。
「な、にを言ってるんだ。そんな……、今ロンドンから帰って来て、来たばっかりだから、そんな気になってるだけだ。明日になったら、また違う。
 今晩一緒にいよう、な? また俺といれば、気持ちが変わる」
「私、同じこと言いました。あの人に。だけど、それすら拒まれた……」
「愛……」
「私、忘れられない……きっと、死ぬまでずっ……」
「そんなわけがないだろう!? そんなはずない。人生まだまだ長いんだ、そんなわけないさ。深く考えすぎだよ……」
「………」
「そんなわけないだろう……、もう、二度と会わないなら、忘れてていくさ……。
 毎日仕事して、年を重ねるうちに、昨日のことなんかすぐに忘れるように、彼とのことも忘れる。
 彼にも新しい彼女がいるんだろう?
 なら、彼のためにも、自分のためにも、忘れた方がいい」
「………」
 彼女は閉口したまま静かに涙を流した。
 一番辛いのは、自分じゃなくて、過去から逃れられない彼女だ。
 その頭を優しく抱き寄せ、額にキスする。
「考えすぎなんだよ……少し、違うことを考えて、違うことをすれば、また落ち着くさ……」
「……」
「明日、仕事?」
「……知らな……い」
「まあいいか……とりあえず、急用で海外滞在ってなってるから……まあなんかうまい理由でも作って……」
「……不幸……くらいがいいかな……」
「そうだな、いいと思うよ。深くは聞かないだろう、吉川さんなら」
「うーん……多分……」
「明日、休むか? 俺も休みだし」
「一緒にいるって意味?」
 聞きながら、彼女はゆっくりと離れた。
「……嫌?」
「………、少し、距離を置いた方が良くないかな……」
 本気で言っているのかと、睨みながら彼女を見つめた。
「良くない。一度距離を置いたら、もう戻れない」
「……でも……、……」
「いいよ、焦らなくて。ただ一緒に食事をする。それだけでいいじゃないか」
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