絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 吐き気で目が覚めた。眠っていたのは、ベッド。白いふかふかの布団が場違いに気持ちよくて、目が完全に覚めるまで少しかかる。
 ここは……船の中……にしても天井が高い。
 何がどうなったか……。
 思い出そうとすると、吐き気に襲われる。
 まず、ベッドから降り、ドアから外に出た。多分ここはリュウの部屋。天井が高く、高級な感じがするので助かったのだと理解する。
 そう思うと安心した。
 この近くに彼はいるはず。
 しかし、廊下を少し歩いて気づく。
 玄関がある。
 ここは、家……?
 知らない間に船から下ろされたのだろうか?
 窓を見ればすぐに分かる。だが、今はそれより先に喉が渇いた。
 洗面所でも何でもいいから、水……。
 すぐ近くのドアを開ける。
 ナイスタイミング、洗面所だ。
 コップにかけられたビニールを剥ぎ取ると、すぐに水を入れて飲む。
 不味い水。
 しかし飲まないよりマシだ。
 水を飲んで何度か深呼吸で息を整えると幾分か気分がよくなった気がする。
 それから、顔などなんとなく整えてさっぱりしてから、彼を捜しに向かった。
 今が昼か夜か分からないが、その辺にいるだろう。
 少し歩くと予想通り、リビングになる。
 入ってすぐ、シャンデリアに見とれたせいで、ソファに座っている男に気づくのが、遅れた。
「気分はどうだ?」
「………」
 驚いて声が出ない。
 そこには、あの、リュウがいるはずなのに、いたのは、あの男……、香月を縛った男の上司と思われる男。
「あ……」
 何か言おうとしたが、言葉が見つからない。
 相手は、ノートパソコンに視線を落とし、煙草を一口吸った。
 そこでふっと、ソファの後ろを見て気付いた。オレンジ色の空がある。ビルがある、街がある。しかも、いつものマンションよりももっと高い場所だ。
 やっぱりここ、船じゃなかったんだ……。
 そこには、夜景にうつりつつある、おそらく香港であろう景色が窓いっぱいにに広がっていた。
「今夜12時、書類とお前を交換する」
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