絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 入院? そんなこと言ったか?
「え……」
 彼女の顔色が一瞬で変わる。
「榊という人からの電話だ」
「勝手に出たの!?」
 その切り替えしはないだろう。
「貸して!」
彼女はすぐさま携帯を奪い取り、着信履歴で発信をする。まるでこちらなど見てはいない。
「もしもし! ごめん、阿佐子が、どうして!」
 その声は悲鳴にも似ている。
「だって昨日は、あんなに!」
 ああ、昨日の3人ってその自殺未遂の子と榊と愛の3人のことだったのか……。
「え……うん、……うん、うん、今から行く。どこ? 何階? え? 前の? ……分かった。うん、分かる。うん。行く。ごめん、うん……」
 しばらくして電話が切れた。彼女は青い顔をしながらも、携帯をバックにつめながら、
「病院行くから」
「送ってく」
 彼女はこちらを見た。
「何を……久司が何を説明するんだと思う?」
「え……いや、さあ……病態のことについてじゃないのか?」
「……」
「大丈夫か?」
「……行くからお願い、連れてって」
 彼女はよろける体をこちらにしがみつかせると、どうにかマンションを出る。行き先は何故か病院ではなく、その近くの24時間カフェで待ち合わせ。何故、そんな場所で説明を?
 まさか、その全てが狂言で、この3人を揃わせ、何か発言をしたいのでは?
 シートベルトも締めずにぼんやり先を眺める彼女を気の毒に思いながらも、妄想は止まらない。
「病態の説明ならどうして病院じゃないんだろう……」
 軽く、軽く。
「そう。何故? ……私、阿佐子に早く会いたいのに」
「けどやっぱり、その……榊って人に会ってからの方がいいんだろ?」
「違うんだ、きっと」
「え……?」
 彼女も、狂言だと気づいてる?
「薬を飲んだ、理由なんだわ」
「……心当たりが?」
「……分からないわ、そんなこと」
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