絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 心当たりがあるようだ。どんなことか……三角関係か?
 いや、三角ではない、今は四角だ。
 車は20分ほどでカフェに到着する。車から手ぶらで降りた彼女のバックを助手席から拾うと、先へと進む彼女の後についた。
 店内の一番奥に腰掛けていた榊久司は、香月を見るなり立ち上がる。しかし、こちらを見ても、何の反応もない。
「どうしてここに?」
 彼女は先に奥へ詰めると、奴の真正面に着いて挨拶もなしに話を始めた。
「今は意識もはっきりしてるし、安静にするために入院してるだけだから心配はしなくていい。だけどどうしても伝えておきたいことがあってね」
 奴は先に彼女を安心させてから、話を始めた。病状が問題ではないらしい。
「……その前に、わりと立ち入った話になるけど、付き添いの方はいいの?」
 奴はようやくこちらを一瞥する。年は同じくらいか、少し若いか。
「申し遅れました、ホームエレクトロニクスの宮下です」
「どうも」
 奴は一度こちらを確認したがそんなことどうでもよさそうに、すぐに彼女に視線を戻す。
「いい?」
「……何を? 構わないわ。同じ会社でお付き合いをしています。隠すことなんて、何もない」
 こんな最悪の状況にありながらも、その言葉が聞けただけで、十分だ。言葉遣いがいつもより丁寧すぎることも、目をつぶることができる。
「先に聞きます。あ……、香月さんが今乗ってる車の車種は?」
 何故か奴はこちらにまっすぐ視線を向けた。
 香月が乗っている車?
「……」
 彼女はこちらを見ずに、
「あんまり乗ってはないけど、BMよ。阿佐子のあの車と同じか似てるか分からないけど」
 奴は何も言わず、またこちらに尋ねてくる。
「車種は?」
「クーペです」
 堂々と答える。
「そうですか……。愛はどうせ興味ないと思ったから、知らないだろ?」
「うん、知らない」
 その呼び名に、さすがに宮下は眉間に皺を寄せた。
「昨日の、多分同じ車だよ、愛がもらったのと」
「え?……」
「お嬢様、あれが乗りたくて免許をとったって言ってたよな」
「……」
 彼女が固まった。
「……」
「あの車に、愛がプレゼントされた車にどうしても乗りたかった、と。
 それくらい、好いていたんだろうな。俺も、ちらっと話を聞いてただけだったし……」
「え……それで? それで……?」
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