絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 今度はベッドの端に腰掛け、サイドテーブルの灰皿に灰を落とし、話を聞く気は満々である。
「あの車を……返そうと思うんです」
「……どうして?」
 一度、目が合う。
「最初にリュウさんに引き合わせてくれた友達が、フェイロンさんのことが好きだからです。だから……」
「返したって何の意味もないだろう」
「……あの車は出会った印に、と頂いた物です。駐車場、ガソリン、車検、税金は全て払ってもらっています。……、なんだか……そこまでしてもらって、私が彼のことを好きじゃなくて、私の友達が彼のことを好きってことが……今更だけど」
「……、よく日本に返してくれたな」
「え?」
「そこまでしておいて日本に返す意味……」
「それは、私が帰りたいって言ったからだと思いますけど」
「そうしたらすんなり返してくれた?」
「え、だって……まあ……」
「……車を返すと言ったら離さないだろうな」
「え……」
 香月は目をまん丸にした。
「今は自分の言うことを聞いてくれているから、ある程度野放しにできているんだろう。
 だが、それが自分から離れるとなれば……近くに置いておかないと気がすまなくなるかもしれない」
 香月はしばらく考えてから口にした。
「……どう思います?
 私の友達……、自殺未遂したんです。その人のことが好きだけど、……叶わなくて」
「どうも」
「あの車に乗っていると、私が殺したような気がする」
 考えるのも恐ろしいとずっと隠してきた言葉。
「自分で死ぬんだ。誰のせいでもない」
「……」
 巽から簡単に答えは出たが、ずっと隠してきた一言を出した途端、体の力が抜けた。
「もし、車を返すって言ったら、中国に監禁されるでしょうか?」
 彼はギィと音を立てて、左手に体重をかけて体勢を崩した。
「……中国に返しに来いと言って、そのまま自分のものにするか……。どちらにしても、そこですんなり納得はしないだろう」
「元手がかかってますもんね」
「そうか、返してやらないこともないぞ?」
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