絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「え……」
「食事だ。食べられないか?」
「いや……」
 男とその冊子との距離はわずか2メートル。
 まだ部屋の真ん中で立ち尽くしていた香月は、前に進むことができずに立ち尽くしてしまう。
 考えている間に時間が経過し、
「どうした?」
 と、こちらを見上げる視線にも、うまく応えられない。
 男は、もう一度パソコンに目を落とした後、ゆっくりと立ち上がり、歩き始めた。
 明らかに、こちらに歩み寄って来ている。 
 2メートル、1メートル……。
 そこまで来た時、耐えられずに、後ろに少し下がった。
「どういうつもりだ?」
 聞かれている意味が分からなくて、考えようと思った瞬間、顎をぐいと掴まれて、顔を持ち上げられた。
「まさか奴がその気もないお前のために、権利書と交換するつもりもなかろう」
「……え……」
 目を強引に合わせさせられて、問いかけられても、答えなど最初からない。
「どうだ?」
 貫くほどの鋭い視線を向けられても、返す言葉は頼りなく、
「わっ……私はっ、ほんとにっ……」
「会って2度目だと言ったな」
「はっ、はい!」
「そんな嘘が通じるものか……」
 男は、睨みながらも、口で笑い、
「紋章を見せてみろ」
「え……」
「何度も言わせるな」
 明らかに顔つきが変わった。
 だけど、そんなこと言われたって、紋章って一体……。
 男はようやく、顎から手を離した。
「も、紋章って、車のやつのことですか?」
 冷静に、落ち着いて、話を持っていく。
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