絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「夫婦愛だね!」
「まあな(笑)。それが慶一郎さんに不倫じゃないかと疑われてたとは」
「そりゃ吃驚だね」
「あそう。だからなんで俺?」
「うん、なんかメモ書きみたいなのが残されてたらしくて。『お願いだから好きになって』だったかな……」
「それなら疑われても仕方ないか」
 ふっと息を吐きながらあまりにも素直に認めるので、
「……実際は違うよね? え、今までそんなことあったの?」
「ないない。俺のことなんか全然眼中にないじゃんあの人。それは俺も同じだけど」
「うんまあ、そんな感じはしてたけどね」
 奥にあるエレベーターが一度開いて数人の見舞客がロビーを歩き始めた。2人はタイミングを合わせたように、静かになる。
 数分の間、ただ飲み物を飲んで息をついた。
「…………本当に久しぶりだな」
 最初に発したのは、夕貴。
「そうだね……」
 まるで、同じ回想を見ていたかのよう。
「どうせ今の彼氏も苦労してるんだろ」
「何が?」
「お前がわがままだから」
「何が(笑)、そんなわがままなんか言ったことないよ」
「そうかぁ?」
「うんそう」
「それにしても、あいつともまだよくつるんでられるな」
「……榊のこと?」
「そ」
「……うん」
「あんな男のどこがいいんだか……」
「皆にそう言われる」
「だろうな」
 一成夕貴はいつも本音で話す。ズバズバ、容赦はしない。
 いつだってそうだ。
 好きだと一言言うのも、ちゃんと本気で嘘偽りない。
 その昔、夕貴に好きだと言われたことがある。その時確か、榊にふられる形になった直後のことで。慰めの言葉が榊への暴言に聞こえて、結局跳ね除け、疎外してしまった彼の気持ち。
「私、本当はずっと忘れられなかったわ。
 実は阿佐子の家で再会する一年くらい前、偶然結婚式場で再会したのよ。
 私、その時長いドレスを着て、高いヒールを履いてた。だけど構わず走ったわ。人目もくれず、汗びっしょりで……。
 ねえ、聞いて。あの人、あの時の子供は奥さんとの子じゃなかったって言うの、信じられる?」
「らしいな、聞いたよ。阿佐子から」
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