絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
白衣の榊を見たのは、実にいつぶりだろう。彼はポケットに手を突っ込み、こちらに颯爽と歩いて来ると、
「お嬢様に会った?」
と、普通に話しかけた。おそらく、夕貴とは何年ぶりかの逢瀬である。
「……え、あ、うん……とりあえず」
それよりも、夕貴の態度が心配で仕方ない。
「久しぶりだな」
意に反して、榊はすぐに夕貴に挨拶をした。
「俺は一生会いたくねーけど」
榊と夕貴は会う度に機嫌が悪いが、それは今に始まったことではない。
「他に……誰かお嬢様の心を引くような男がいればよかったんだがな」
榊は夕貴が内容を知っていると判断して話しかけてきているのかどうか分からないが、とりあえず香月は「そうだね」と返事をした。
「たいていどうでもいいような男だよな。高校教師に始まり」
夕貴がしっかり輪に入って来る。そう、入らなければ嫌にならないのに、話さずにはいられないのか、寄って来るのが彼という人間だ。
「でも私、その高校教師くらいしか知らない」
「後は。なんかどうでもいいようなサラリーマンとかいたよ、間に。ほんっと普通の奴」
「ああいうお金持ちってそういう人ばっかりみてるから、普通の人が新鮮なのかなあ」
「だろうね」
夕貴は簡単に頷いてみせたが、
「って、自分だって十分お金持ちじゃんかー!」
彼の父親は樋口警視庁総監の直属の部下である。説明なしのエリートだ。
「んなもん俺の金じゃねーよ」
「私だけじゃん、一般庶民」
「ホームエレクトロニクスだってなかなか入れないよ、競争率が高い」
榊の慰めはいつも通り。
「一般大学しか出てなくも入れるんだから、たいしたことないよ」
香月はふいと、拗ねてみせる。
「そうやって自分をさげずむな!」
お金持ちの夕貴は、しっかり意見してくれる。
「お金持ちに庶民の気持ちはわかんないんですー!」
その言葉に3人は少し笑ったが、すぐに沈黙が訪れる。
だが次にそれを破ったのは、意外にも夕貴であった。
「あのさ、一つ言っていい? 俺が出る幕じゃないことは十分承知の話なんだけど」
「……何?」
夕貴と榊が視線を合わせて会話をする、非常に危険だ。
「愛と会うの、もうやめたら?」
「お嬢様に会った?」
と、普通に話しかけた。おそらく、夕貴とは何年ぶりかの逢瀬である。
「……え、あ、うん……とりあえず」
それよりも、夕貴の態度が心配で仕方ない。
「久しぶりだな」
意に反して、榊はすぐに夕貴に挨拶をした。
「俺は一生会いたくねーけど」
榊と夕貴は会う度に機嫌が悪いが、それは今に始まったことではない。
「他に……誰かお嬢様の心を引くような男がいればよかったんだがな」
榊は夕貴が内容を知っていると判断して話しかけてきているのかどうか分からないが、とりあえず香月は「そうだね」と返事をした。
「たいていどうでもいいような男だよな。高校教師に始まり」
夕貴がしっかり輪に入って来る。そう、入らなければ嫌にならないのに、話さずにはいられないのか、寄って来るのが彼という人間だ。
「でも私、その高校教師くらいしか知らない」
「後は。なんかどうでもいいようなサラリーマンとかいたよ、間に。ほんっと普通の奴」
「ああいうお金持ちってそういう人ばっかりみてるから、普通の人が新鮮なのかなあ」
「だろうね」
夕貴は簡単に頷いてみせたが、
「って、自分だって十分お金持ちじゃんかー!」
彼の父親は樋口警視庁総監の直属の部下である。説明なしのエリートだ。
「んなもん俺の金じゃねーよ」
「私だけじゃん、一般庶民」
「ホームエレクトロニクスだってなかなか入れないよ、競争率が高い」
榊の慰めはいつも通り。
「一般大学しか出てなくも入れるんだから、たいしたことないよ」
香月はふいと、拗ねてみせる。
「そうやって自分をさげずむな!」
お金持ちの夕貴は、しっかり意見してくれる。
「お金持ちに庶民の気持ちはわかんないんですー!」
その言葉に3人は少し笑ったが、すぐに沈黙が訪れる。
だが次にそれを破ったのは、意外にも夕貴であった。
「あのさ、一つ言っていい? 俺が出る幕じゃないことは十分承知の話なんだけど」
「……何?」
夕貴と榊が視線を合わせて会話をする、非常に危険だ。
「愛と会うの、もうやめたら?」