絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
夕貴の質問と榊の表情に不安になったが、それも一瞬で解消される。
「とっくにやめてるよ」
榊は即答した。
「今回の連絡のことは、愛的にも良かったと思うよ、阿佐子のこと。だけどこれからどうでもいいようなプライベートのことで会ったりしないでほしい」
勇気は勝手に人の意見を代弁するかのように、言い放った。
「……してないし、これからもしないよ」
夕貴の睨みに構わず、榊はいつも通りの平常心で答える。
「そうよ?」
香月も夕貴を宥めるように、優しく納得させようとした。
だが夕貴はそれには構わず榊に向かって、
「分かるだろ! お前のこと、忘れられなくて苦労してるんだよ。お前、そのこと分かってて暢気に目の前に現れたりすんなよ」
「えっ、あの私……」
「お前のために言ってるんだぞ」
夕貴の厳しい視線が突き刺さる。
「昔の話だよ、付き合ってたのは。今は自分が望んでもそんな立場に置かせてもらえないのは十分承知だ」
え……?
2人は同時に榊を見上げたが、その榊の視線はしっかり夕貴と合っていて。夕貴は乱暴に立ち上がると、白衣の襟元を片手でつかんだ。
「お前ふざけんなよ……、今も他に女がいながらどうせそんな口叩いてるんだろ」
「今は恋人も妻もいないのが事実だ」
「おま……お前が愛をダメにしてるんだ! いい加減分かれよ!」
「い、いいのよ!」
堪らず香月も立ち上がった。
「いいのよ、別に……、今の彼氏とだって、私は別れてもいいわ」
香月は宮下と完全に別れるつもりで言った。
「お前……何言ってんだよ、どんだけ人傷つけたら気が済むんだよ!」
恐ろしくて夕貴の顔など見れはしない。
「誰と付き合ったって、時間を置いたって、離れたって、どうしたって、忘れられない」
香月は遠くの床のタイルを見ながら放った。
「お前もわかんないのかよ……、」
夕貴の言葉の後を香月はじっと待ったが、先に口を開いたのは、意外にも榊だった。
「俺が好きだと言ったところで、何も変わらないよ」
即座に榊と目を合わせた香月は、
「今の彼氏と別れるわ」
睨むほど真剣に見つめる。
なのに、急に柔らかな表情になったかと思うと、
「俺はもう愛を泣かせたくない。前にも言ったが、付き合ったところで、思い出すのは昔のことだけだ。愛は俺を許しはしないだろう。
何度か……ロンドンに来るたびに思っていたよ。
この人はやっぱり素敵な人だって。だけど、それを行動に移すのは違う。俺じゃない」
「あなたがいい」
口説けばどうにかなるかもしれない。香月は力を込めて意思を伝えた。
「一成の前だと正直になるよ」
突然榊は夕貴を見つめて薄く笑った。
「え?」
そっぽを向いて腕を組んでいた夕貴は、榊を睨む。
「正直、もちろん好きだよ。だけど俺と一緒にいたって幸せになれないことくらい、自覚してる」
「とっくにやめてるよ」
榊は即答した。
「今回の連絡のことは、愛的にも良かったと思うよ、阿佐子のこと。だけどこれからどうでもいいようなプライベートのことで会ったりしないでほしい」
勇気は勝手に人の意見を代弁するかのように、言い放った。
「……してないし、これからもしないよ」
夕貴の睨みに構わず、榊はいつも通りの平常心で答える。
「そうよ?」
香月も夕貴を宥めるように、優しく納得させようとした。
だが夕貴はそれには構わず榊に向かって、
「分かるだろ! お前のこと、忘れられなくて苦労してるんだよ。お前、そのこと分かってて暢気に目の前に現れたりすんなよ」
「えっ、あの私……」
「お前のために言ってるんだぞ」
夕貴の厳しい視線が突き刺さる。
「昔の話だよ、付き合ってたのは。今は自分が望んでもそんな立場に置かせてもらえないのは十分承知だ」
え……?
2人は同時に榊を見上げたが、その榊の視線はしっかり夕貴と合っていて。夕貴は乱暴に立ち上がると、白衣の襟元を片手でつかんだ。
「お前ふざけんなよ……、今も他に女がいながらどうせそんな口叩いてるんだろ」
「今は恋人も妻もいないのが事実だ」
「おま……お前が愛をダメにしてるんだ! いい加減分かれよ!」
「い、いいのよ!」
堪らず香月も立ち上がった。
「いいのよ、別に……、今の彼氏とだって、私は別れてもいいわ」
香月は宮下と完全に別れるつもりで言った。
「お前……何言ってんだよ、どんだけ人傷つけたら気が済むんだよ!」
恐ろしくて夕貴の顔など見れはしない。
「誰と付き合ったって、時間を置いたって、離れたって、どうしたって、忘れられない」
香月は遠くの床のタイルを見ながら放った。
「お前もわかんないのかよ……、」
夕貴の言葉の後を香月はじっと待ったが、先に口を開いたのは、意外にも榊だった。
「俺が好きだと言ったところで、何も変わらないよ」
即座に榊と目を合わせた香月は、
「今の彼氏と別れるわ」
睨むほど真剣に見つめる。
なのに、急に柔らかな表情になったかと思うと、
「俺はもう愛を泣かせたくない。前にも言ったが、付き合ったところで、思い出すのは昔のことだけだ。愛は俺を許しはしないだろう。
何度か……ロンドンに来るたびに思っていたよ。
この人はやっぱり素敵な人だって。だけど、それを行動に移すのは違う。俺じゃない」
「あなたがいい」
口説けばどうにかなるかもしれない。香月は力を込めて意思を伝えた。
「一成の前だと正直になるよ」
突然榊は夕貴を見つめて薄く笑った。
「え?」
そっぽを向いて腕を組んでいた夕貴は、榊を睨む。
「正直、もちろん好きだよ。だけど俺と一緒にいたって幸せになれないことくらい、自覚してる」