絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「そんなことない!」
「一成が言うとおりだよ、彼が正しい」
「……そんなことない」
 心の内が、何故榊だけには伝わらないのかと、何故、一番伝わってほしい相手にだけは、伝わらないのかと。
「お前が……連絡するのやめればいいだろ」
 夕貴は榊に対し、溜息をつきながら、ソファに腰を下ろす。
「違うの、いつも私が強引にしてるのよ」
「この前の、彼氏だろ?」
 何のことかと、香月は榊に顔を上げた。
「えっと、名前忘れたけど」
 ああ、そういえば何故あんな所に宮下を連れて行ったのか、今更後悔し始める。
「うん……」
「結婚するのもいいと思うよ」
「やめてよ、そんな簡単に……」
 香月は怒り半分で拒否したが、榊は半分笑いながら、
「あんまり色々言うと、一成が怒るからやめとくよ」
「夕君は関係ないわ」
 夕貴の視線を感じたが、もちろん後ろは振り返らない。
「話をしてると楽しいと思う。けど、その先に進んで幸せにできる気がしない」
「じゃあ友達でいいじゃない」
「それも、よくない」
「……」
 夕貴がふいっと席を離れた。下らない会話に飽き飽きしたのだろう。
「いずれ忘れるわ、きっと」
「……」
「今だけなのよ、多分」
「……」
「自然でいればいいじゃない」
 夕貴がいない今だから、こういう会話をしてしまう。
「……どうしたって、離れられないのかもしれないな」
「そうよ。無理にどうこうしたって辛いだけ……。自然に忘れるまで、ごめんなさいね」
 言葉につまって、つい謝ってしまう。だが、彼はそれには何も触れず。
「あいつは相変わらずだな、ズバズバほんとに」
「うん、でも気持ちいいわよね」
「そうだな」
 聞こえていないとは思うが、こちらの視線を感じてか、彼は窓の外を見たまま動かない。
「お嬢様が目を覚まして、この3人が揃ってたら吃驚するだろうな」
 ああ、一度だけ、以前一度だけこのメンバーが揃ったことを思い出す。その時、榊と夕貴がけんかをして、いや、夕貴が一人拗ねて、結局すぐに解散してしまったのだが。
 香月は思い出して笑った。
「うん、そうだね」
 それと同時に涙もこぼれた。
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