絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
参ったな……。
髪も備え付けの櫛で梳いたが、最初とほとんど何も変わっていない。
鏡の中のドレスに血がついているのに気付いて慌てて、タオルで拭いた。すでに乾いていたため、タオルに血の粉がつく。目を閉じて、深呼吸をし直す。
これが誰の血かなんて、考えたくない。
忘れてはいけない、相手は銃を持っている。
大きく溜息をついてから、歩きだす。
再びリビングに戻ると、男は同じ場所で同じようにパソコン相手に集中していた。
「あ、美味しそう!」
テーブルには、思わず声を上げるほど、今の空腹を満たしてくれるのにもってこいな期待以上のチャーハンを中心とする数々の中華料理とコーヒーとケーキが並べられていた。
あぁ、ケーキがバタークリームじゃなくて、チーズならもっとよかったのに。
「……」
しかし、食べるには、男の隣に座らなければならない。
「冷めるぞ」
こちらを見ずに、画面を見ながら、男はグラスの中の水を飲む。
食事を見て思い出した、思えば、昨日の夜の事件に巻き込まれてから、ほぼ一日近く経過していることになる。
「あの、あの……、あの」
思い切って聞こうと、顔を見ると、相手もこちらを見ていたので驚いた。
「えっ!? あっ、あのっ、あの、私、いつからご飯食べてないんでしたっけ? いえ、あの、あなたと船で会ってから、あれから一日くらい経ってるんでしょうか?」
男は目を逸らし、
「なかなか目を覚まさないんで、半分は死んだかと思ったがな」
……さらっと言うことですか、それ?
そういえば、どうして気を失ったんだろう。その辺りも全く分からない。
「えっと、あの、何故どうして私は目を……眠ったんでしょうか?」
怖いが、その顔を見ないわけにはいかない。
「覚えてないんなら、知らない方がいい」
タバコを銜えたまま、高そうなライターで火をつける姿がとても様になっていて、場違いにも思わず見とれた。
「とりあえず、食え」
タバコで食事を指す。
香月は、慌てて、ソファにようやく腰を下ろした。
「いただきます」
独り言と信じて言う。男に、ありがとうとかそういう感謝の気持ちを述べたいのではない。むしろ、感謝されたいのはこっちの方である。こんな危険な目に合わさせたのだから、中華料理とケーキセットじゃ安すぎるくらいである。
お、味はなかなか、さすが本場だ味が良い。ちょっと辛い気もするが、そこが本場ということなのだろう。
さて、デザートはバターケーキでもまあ有りなんだが……せっかくタダなんだからもう一品注文したいな……。
一日ぶりの食事とあって、ものの数分で全ては平らげられてしまう。
「ごちそうさまでした……」
髪も備え付けの櫛で梳いたが、最初とほとんど何も変わっていない。
鏡の中のドレスに血がついているのに気付いて慌てて、タオルで拭いた。すでに乾いていたため、タオルに血の粉がつく。目を閉じて、深呼吸をし直す。
これが誰の血かなんて、考えたくない。
忘れてはいけない、相手は銃を持っている。
大きく溜息をついてから、歩きだす。
再びリビングに戻ると、男は同じ場所で同じようにパソコン相手に集中していた。
「あ、美味しそう!」
テーブルには、思わず声を上げるほど、今の空腹を満たしてくれるのにもってこいな期待以上のチャーハンを中心とする数々の中華料理とコーヒーとケーキが並べられていた。
あぁ、ケーキがバタークリームじゃなくて、チーズならもっとよかったのに。
「……」
しかし、食べるには、男の隣に座らなければならない。
「冷めるぞ」
こちらを見ずに、画面を見ながら、男はグラスの中の水を飲む。
食事を見て思い出した、思えば、昨日の夜の事件に巻き込まれてから、ほぼ一日近く経過していることになる。
「あの、あの……、あの」
思い切って聞こうと、顔を見ると、相手もこちらを見ていたので驚いた。
「えっ!? あっ、あのっ、あの、私、いつからご飯食べてないんでしたっけ? いえ、あの、あなたと船で会ってから、あれから一日くらい経ってるんでしょうか?」
男は目を逸らし、
「なかなか目を覚まさないんで、半分は死んだかと思ったがな」
……さらっと言うことですか、それ?
そういえば、どうして気を失ったんだろう。その辺りも全く分からない。
「えっと、あの、何故どうして私は目を……眠ったんでしょうか?」
怖いが、その顔を見ないわけにはいかない。
「覚えてないんなら、知らない方がいい」
タバコを銜えたまま、高そうなライターで火をつける姿がとても様になっていて、場違いにも思わず見とれた。
「とりあえず、食え」
タバコで食事を指す。
香月は、慌てて、ソファにようやく腰を下ろした。
「いただきます」
独り言と信じて言う。男に、ありがとうとかそういう感謝の気持ちを述べたいのではない。むしろ、感謝されたいのはこっちの方である。こんな危険な目に合わさせたのだから、中華料理とケーキセットじゃ安すぎるくらいである。
お、味はなかなか、さすが本場だ味が良い。ちょっと辛い気もするが、そこが本場ということなのだろう。
さて、デザートはバターケーキでもまあ有りなんだが……せっかくタダなんだからもう一品注文したいな……。
一日ぶりの食事とあって、ものの数分で全ては平らげられてしまう。
「ごちそうさまでした……」