絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「先日、ある店舗に私は私服のまま、客のふりをして……まあ、メガネをかけたりしていつもとは多少違う雰囲気の格好で買い物に行きました。家内と2人で。
 丁度テレビが欲しかったし、自分で買い物に行こうと思ったのです。
 嬉しいことに、AVコーナーは店員の手が回らないほどお客様がご来店されていて、私は順番待ちをすることになりました。
 だけどちょうどその時、あるスーツの社員が通りかかったのです。
 私は「テレビが欲しいのですが」と声をかけました。
 彼は「係りの者が案内しますので」と笑顔で言ったきり、どこかへ去って行きました。
 私はそれから誰にも声をかけられることもなく、30分以上待ちました。その後の予定は特になかったのですが、これ以上待ち続けるのは、家内に悪いと思い、謝りながら、その日は帰りました……何も買わずに。
 2月から、新しい仲間が店舗に配属になります。
 接客したことがない者も中にはおります。
 どうか全社員の皆さん、協力してください。
 社員はお客様が育てる、というのが社説にもありますが、皆さんにはそのサポートをしてほしいのです。
 一店舗に一名以上の新入生がおります。
 現場、というものをどんどん叩き込んでやってください。
 よろしくお願いします」
 ほんの5分の会議。
 意味は十二分にあったと、誰もが思った。
 菜月……聡介……。フリーは誰とでもどこにでも飛んでいかなければいけない。
 話す機会があるかな……。
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