絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「はい、前後でチェックー」
 部門長の声が響き渡る。
 あ―しまった……今日は月曜日……服装チェックを列の前後でする日だ……。
 もちろん菜月はみんなと同じように回れ右をし、バッと振り返ると、自分なりにチェックしているのか、じろじろこちらを見ている。
 髪、爪、化粧……合図が順に飛ぶ。香月はもちろんいつも通り平常心で合図に合わせて動いた。菜月も一応それについてくる。
 ふう、ほんっとに、ふざけた朝礼だ……。
 帰って絶対西野に菜月のことを報告しよう。
 午前中はいつものように慌しく時間が過ぎ、すぐに昼食が2時を過ぎる。
 なんとなく座ったいつもの席。今日はパンなので一旦荷物を置いてジュースを買いに行ってから帰ってくると、すぐ近くに女が3人集まっており、その中心にはパソコンを広げた菜月がいた。
「菜月君てさぁ、すっごく頭いいんでしょう?」
「ハーバードだってねー」
「ねえねえ、ここ席横いい?」
 菜月の返事を待たずに一人の若い女性が隣に腰掛けようとすると、彼は一言冷たく放った。
「寄るな」
 香月のパンの袋を破る音だけが響き、思わず下を向く。
 女性たちは驚いた表情をしながらももちろんすぐに退散。
 すごい男だ。
 女性嫌いかな……。
 でも多分、普通に話すことくらいはできるんだろう……。
 それにしても、サンドイッチ食べながら片手でパソコンって中年オヤジでも今時やらないようなスタイルで、黙々と作業を続けている。
 何やってんだろな……。
「フリーをどう思う?」
「えっ?」
 突然の隣からの問いかけに、香月は固まった。ゆっくりと左隣を振り返る。
「フリーを増やすという案に、フリーの香月はどう思う?」
「えー、いや、あー……、まあ、私は楽になると思います」
「それが店のためになると思うか?」
「……まあ、フリーが増えたら皆今より適当な仕事しそうな気はしますけど……」
「全然考えてないな」
 えーーーーーーーーーーー!?だって考えるのはあんたで、作業するのは私でしょー!?
「すみません」
 とりあえず謝る、というか、それ意外の道を知らない。
「……」
 しかも、こっちすら見ないし!
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