絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「お疲れ様です」
 ってこれはナイスタイミングなのかどうなのか、寺山美紀登場。久しぶりだ……。
 彼はやはり構わず、香月の右隣に腰掛けて、テーブルに飲みかけの缶ジュースを置いた。
「お、疲れ様です」
「久しぶりですね」
「そうですね……一年……にもならないか」
「うん、半年くらい」
「……寺山さん、身長何センチでしたっけ?」
「180だけど……何で?」
「いや別に(笑)、昔から大きかったんですか?」
「うん、中学の頃にはもう70くらいあったから」
「そっかあ……」
 特に意味のない会話をするのは、相手から何か言われるのが怖いからかもしれない。
「今日、もし夜空いてたら……食事でも」
 そうら来た……。この、誘われる前の雰囲気が分かるようになるくらい、自分は寺山に誘われたということだろう。
 だが、いつまでもそういうわけにはいかない。
「あの、その前に話したいことあるんだけど……」
「え、何?」
 寺山は覗き込むように、こちらを見た。長い睫がばちりと瞬いたところまでは見たが、それ以上はそちらに視線を送ることができなかった。
「……私、付き合ってる人が、いるから」
 菜月には聞こえない程度の小声だが、多分きっと、聞こえても彼は聞いていないだろう。
「だから……なんか……うんそう、だから……あんまり2人では……」
 こんな場所でこんな内容を話すなんて非常に申し訳ないと思う。
『寺山さん、寺山さん、今お手すきですか? 見積書を持ったお客様がご来店されています』
 そのイヤホンからの誰からとも分からない声にも、寺山の表情は動かない。
「え、呼んでますよ?」
 香月は親切心のつもりで言った。
「うん知ってる」
 堪えたのだろうか? こちらとしては連日のドタバタで半分以上彼の存在を忘れていた。
 時々メールはきていた。だけど内容が興味ないときは返信しなかったり、わりと冷たい、というか本心に近い態度で通してきた。
 よかったとは思う。
 そう、いつだって態度は本心に近い方がいい。
 香月は、寺山からの視線を感じながら、パンに目を落とした。
< 200 / 202 >

この作品をシェア

pagetop