絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「新聞に出ていた」
「……それだけで分かったの!?」
「お前が自分で言うから分かったんだ」
「……皆知ってるんだ……」
 今まで他人にその話題に触れられたことがなかった香月にとって、ショックは相当大きかった。
「自分の身は自分で守れ」
 男はこちらをしっかりと見て言ってくれるが、
「そんなだって、警察にその車が変だって言われたら! この車、変なのかなって……しかも、もらい物の車だったし」
「相手がどんな奴か見極めろということだ」
「そんなのできない」
 即答した。
「だから危険な目に合う。リュウのこともそうだろう。相手が危険な奴だと分かっていれば、ここには来なかっただろうし、こんな目に合うこともなかった……」
「危険なことをする人の方が悪いのに」
 香月は巽を睨む。
 彼はフッと笑って
「まあ、まだ助けてくれる人がいるからいいじゃないか」
「……それは、そう……かも……。
 私もボディガードつけたいなあ……」
 溜息を出して、一瞬の現実逃避をする。
「今のリュウならつけてくれるだろう?」
「そんなことされたって私、何もお返しできませんし」
「別に何もしなくていいじゃないか、そのまま好きに扱っていれば」
 会話を楽しんでいるらしい巽に驚きながらも、香月は続ける。
「そんな分厚くないし、私。好意持ってくれてるのなら、ある程度それに答えなきゃって思うし……だから答えられない時は、近寄らないで欲しいし……」
「相手任せにするな、自分で近寄るなという態度を見せろ」
 しっかり目を見て叱ってくれるのはいいが、言葉に詰まって、
「……私、八方美人なのかな……」。
「じゃなくて単なる馬鹿だろう」
 巽はふんと笑ったが、香月は「近寄るなという態度を見せろ」という言葉を真に受けてしまったせいで、一旦黙ってしまう。
 ナイスタイミングでインターフォンが鳴った。多分デザートが運ばれてきたのだろう。
 香月は必要もない「はーい」という返事をしてから玄関に向かい、ドアをすんなり開けた。
「……巽様は?」
 驚いたのはお互いである。
 ドアを開けた先には、メガネのスーツの男が一人。そういえば、この人に縛られたんだった!
「巽様は奥か?」
「あっ、はいっ」
 男はそのまま中に入って行く。その後すぐにインターフォンが再び鳴って、今度こそは予想通りデザートであった。
 どうしようか一瞬迷ったが、まあいいか、と結局リビングの同じ場所で食べることにする。
 ソファには男と巽が何か会話していたが、知らん振り知らん振り。
 それに、男は出て行ってしまった。
「11時にはここを出る」
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