絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「あ、そういえば、あの方は……あの、私を助けようとして腕を打たれていた……」
「ああ、彼は大丈夫ですよ」
その視線の先は助手席で。
「えっ、あ、運転して……」
「ええ、掠った程度です」
「よかった。すみません、私、あの、あの時、どうしていいか分からなくて、逃げてしまいました。ちゃんと助けるべきでした。すみません」
香月は助手席に向かって頭を下げた。
「それを、ずっと後悔していました。どうして私あの時助けなかったんだろうって。確かに、助けるといったって、ただ見ていることしかできなかったかもしれないけど、それでも、自分だけ逃げるなんて……」
「違いますよ」
リュウは隣で優しく言う。
「彼はあなたを助けることが仕事なのです。あなたに助けられると困るのです。だから、あなたの選択は正しい」
「……そうでしょうか……?」
「違いますか?」
「だって、リュウさんも今私を助けてくれました。あの権利書がすごくお金になるものなのに。それって人命の方が大事だからじゃないですか?
だから……だから、人命最優先、というか……」
リュウは優しく、優しく髪を撫でてくれる。
「……そうですね。あなたが正しい。ただ、権利書のことに関しては、私は率直にあなたの方が大切だと思ったからです。とにかく、無事で何よりです」
「何も……酷いことはされませんでした。巽という人が食事を頼んでくれたりしました」
「巽が? ですか?」
リュウは驚いて顔を覗き込んできた。
「あ、はい」
「……そんな一面もあるのですか……」
「2人きりでずっと同じ部屋にいました」
「……」
彼は視線をどこかに迷わせ、しばらく何か考え込んでいるようである。
「なんか、人生相談みたいに、話もしてくれましたけど……」
人生相談、とは少し違うかもしれないが。
「……まあ、何にせよ無事でよかった……。よかった」
そうやって心をこめたかのように、美しく笑みながら呟かれると、少々赤面してしまう。
「あの、私、そろそろ……日本に帰りたいのですけれど」
「……そうですか?」
思ってもみない返しに、どう答えようか迷いながら
「あ、まあ……、あと一日ないこともないですけど……」
「ああ、彼は大丈夫ですよ」
その視線の先は助手席で。
「えっ、あ、運転して……」
「ええ、掠った程度です」
「よかった。すみません、私、あの、あの時、どうしていいか分からなくて、逃げてしまいました。ちゃんと助けるべきでした。すみません」
香月は助手席に向かって頭を下げた。
「それを、ずっと後悔していました。どうして私あの時助けなかったんだろうって。確かに、助けるといったって、ただ見ていることしかできなかったかもしれないけど、それでも、自分だけ逃げるなんて……」
「違いますよ」
リュウは隣で優しく言う。
「彼はあなたを助けることが仕事なのです。あなたに助けられると困るのです。だから、あなたの選択は正しい」
「……そうでしょうか……?」
「違いますか?」
「だって、リュウさんも今私を助けてくれました。あの権利書がすごくお金になるものなのに。それって人命の方が大事だからじゃないですか?
だから……だから、人命最優先、というか……」
リュウは優しく、優しく髪を撫でてくれる。
「……そうですね。あなたが正しい。ただ、権利書のことに関しては、私は率直にあなたの方が大切だと思ったからです。とにかく、無事で何よりです」
「何も……酷いことはされませんでした。巽という人が食事を頼んでくれたりしました」
「巽が? ですか?」
リュウは驚いて顔を覗き込んできた。
「あ、はい」
「……そんな一面もあるのですか……」
「2人きりでずっと同じ部屋にいました」
「……」
彼は視線をどこかに迷わせ、しばらく何か考え込んでいるようである。
「なんか、人生相談みたいに、話もしてくれましたけど……」
人生相談、とは少し違うかもしれないが。
「……まあ、何にせよ無事でよかった……。よかった」
そうやって心をこめたかのように、美しく笑みながら呟かれると、少々赤面してしまう。
「あの、私、そろそろ……日本に帰りたいのですけれど」
「……そうですか?」
思ってもみない返しに、どう答えようか迷いながら
「あ、まあ……、あと一日ないこともないですけど……」