絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「お久しぶりです。店長会以来ですね」
「あぁそうか。2ヶ月くらいになるかな」
「すごいですね、東都は。本当に大きい」
「うん、歩くの疲れるよ(笑)」
「シフトとかどんな感じなんですか?」
「うーん、主に、フリーで動ける人を増やしてるとこ。特に香月はよく働いてくれるよ」
 いや、その存在はここのドアを開けたときから知っていましたとも。この超有名人、香月愛。
「あ、香月です、よろしくお願いします」
 飲んでいたジュースをとりあえず置いて、小さく頭を下げる。
「こちらこそ、お願いします」
「レジは香月と、玉越と、あともう一人フリーで動かして……」
 実際こんな間近で彼女を見たことがなかったので、有名人であることを改めて確認するはめになる。はあ、こりゃ誰もが知るわけだわ。
 相当の美人。でもこんなところで家電売ってるのが不自然じゃない。自然体というかなんと言うか、引き込まれそうな肌は透き通るように白く、唇は自然なつやと赤みがまるで白雪姫を思い出させるのに、全体としてその場にちゃんと溶け込んでいる。
「……で、こっちの西野は冷蔵庫担当」
「あ、はい、西野は知ってます」
「お久しぶりです」
「相変わらずラーメンだな」
 そんな簡単な挨拶と情報交換の後、重要な経営方針について尋ねるところが、ある瞬間、全員の顔が妙になったな、と思ったら西野が、
「あー……、さっきの電話の人ですよ。クレーマー」
「はい」
 宮下は首を回しながら返事をすると、弁当もそのままにスタッフルームから売り場へ降りて行ってしまう。
「クレーマーって?」
 香西は西野に聞いた。
「なんか、なんだったかな……」
 西野は考えているが、香月が代わりに答えてくれる。
「えーと、面白いんですけどね(笑)。いつも新人の人とかに接客させて、ちょっとしたミスを見つけて、宮下店長に謝らせる女の人なんです。多分宮下店長がお気に入りだからそうするんじゃないかって話です」
「そりゃまた面倒な……」
「そうなんすよねー。またちょっと美人なとこが面倒」
「えー、そう?」
 香月は西野をじっと見つめた。
「ちょっとな」
 西野は香月に絶妙にうなづきかける。
「えーと、永作とは確か一緒にしたことあったな。永作確かいるよな?」
「PCです」
「そうそう、後は仲村副店長と……誰かいたかなあ。香月さんは初めてですよね?」
 そりゃあもう分かっていたが、話しかけたくてつい。
「あ、はい。監査でお見かけしたくらいで……」
「ああ、そうだったかな」
 その昔、一度会ったことを覚えてくれていたなんて、これほど嬉しいこともない。
 だが香月をフリーで動かす……、そこに少し疑問を抱いたので聞いてみることにする。
「フリーで動く、というのは具体的には?」
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