絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「えーと、電話が鳴ったら取るし、レジが並んでいたらレジ、あ、私小店舗の月島から来たんです。だからその時の名残がずっと残ってて今もほとんどそのままです」
 家電量販店は、近年大型化されている。その中で作業は分担制になり、半径5メートル以内の仕事しか知らない従業員が増え、フリーという何にでも対応できる便利な従業員は圧倒的に減った。その中で閉鎖された小店舗から大型店に移動してきた従業員は、半径などとは言わず、店内の作業すべてを全員で分担していたため、今は貴重な戦力として扱われている。
「あぁ、そういうこと。じゃあ本当に何でもできるわけだ」
「そうですね、倉庫も行きます」
「え、倉庫も?」
「携帯販売も時々。あとはリサイクルは担当でやってます」
「なるほど。玉越さんもそんな感じ?」
「うーん」
 香月は、宙を仰いだ。
「いやあの人はなんというか、ちょっとしたクレーム処理とかやりますからね」
 西野は笑いながら続ける。
「お客さんに対してちゃんと言える人だから、カウンターの店長って感じです。昔ながらの知識を生かしたり」
「それ絶対怒る(笑)」
「えーと、そんな年いってないよな?」
「……」
 香月が黙ったせいか西野が、
「30いったかいってなかったか……」
「まだ20代です」
 香月は西野を睨む。
「詳しくは本人に(笑)。けど10年選手であることは間違いないです」
「結構皆仲いいんだな」
 香西はほっとしながら言った。
「うーん、この辺は。いいかなあ?」
 香月は西野に続けて確認する。
「私と西野さんなんか一番仲いいくらいですよね?」
「えっ、そうなの??」
「……違うの?」
「や、違わないけど……」
「岡田さんは? どんな感じ? 時々噂聞くけど」
「あー、ダメですよ、あの人は。もう関わりたくない」
「あれなんですよ(笑)。西野さん一回クレーム押し付けられて(笑)」
「ほんと最悪、勝手に俺の名前で伝票上げて、名前間違えて打ったとか言い出してね、だけどお客さんは店員の顔なんて覚えてないから名札見て俺を酷く怒るわけ」
「いつもそんななのか?」
「それは最高に酷い話。けど、似たような話ならいくらでもありますよ、あの人は」
「そうか……。ここのトップ3は?」
「今月2位は俺です」
「(笑)。そうか(笑)。よく頑張ってるな」
 しばらく談笑は続いた。西野も昔に比べてかなり成長したように見えたし、香月もよく食べ、よく喋り、健康そのもののように見えた。
 4月からはこのメンバーと仕事をする。
 十分に期待をしていいだろう。良いタイミングでの移動になった気がする。
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