絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ

そういう意味で、ではないが、玉越は有能だ。レジカウンター周りしかできない香月に比べると、そのレベルの差は歴然である。玉越の方がこの業界に携わって長いせいもあるが、勉強精神が旺盛だった。飲み込みの速さはまあ、年のせいもあってほどほどだが（笑）、ちゃんと指示してもしなくても勉強をしてくれる。
　彼女を失うかもしれない、と分かっているせいもある。
　だから、ないもの欲しさで、そうやって評価してしまうのかもしれない。

「香西副店長、香月さんですが、今電話で確認しましたが、やっぱりオリテルしてないそうです」
　それに、香月はこうやって時々ミスを犯す。人間だし当たり前だが、こうやって2度も同じようなミスが続くと、ちょっと眉間に皺を寄せてしまう。
「どんな感じ？」
　今回、ケツ拭きが当たってしまった玉越に聞いた。
「えーと、彼女はもう早上がりで帰ったんですけど、2時頃にあった折り返しの連絡を忘れていてお客様はお怒りです。かなり。エレクトロニクスの30分以内はいったい何時間なんだ、と」
「相手はどんな人？」
「おじさんです。テレビを買いたいから値段を聞いているのに、売らないつもりか、といった内容です」
「……2度目だな」
「えっ、何が？」
「香月のクレーム処理」
「たまーに忘れるんですよねえ、根はしっかりしてるんですけど（笑）」
「……かけよう」
　前回も同じような、伝票を上げ忘れたことを自宅に帰ってから気づいたと閉店間際に電話が入り、配送の希望時間までに商品が入荷出来なくなったことを詫びたらたいがい叱られた。
　あれからまだ3日しか経っていない。
　時期的に今はまあ忙しいが、目が回らないほどでないし、ちょっと仕事が雑なところがあるのかな、と思ってしまう。
　普段はそんなことはない。さすが小型店からきただけあって、その辺の部門長よりよく分かっているところもある。
　人のミスで客に怒られることが仕事の基本だが、香月は有名人であっただけに、こんな仕様もないミスの連続に若干のショックを受けていた。
　そしてその翌日、香月はえらく落ち込んでこちらを見るなり心配そうな顔で寄って来る。
「あの……昨日の……」
「おはよう」
「あ、おはようございます。あの……」
「あぁ、昨日のはとりあえず大丈夫だったよ。もうここでは買わないといわれたけどね」
「……すみませんでした」
「ちゃんとしなきゃいけないことをメモしてやったかどうか印をちゃんとつけること、基本」
「はい、すみません」
　その顔が上がることはない。
「……」
「次回からは気をつけます」
　そう言ったその当日。携帯電話を売ったはいいが、使用できない地域だとクレームの電話があった。担当、香月愛。