絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 それが何なのか少し興味はある。
 その日の閉店作業中、香月と宮下が隅のレジの前で会話しているのをついつい見つけてしまった。こうして見てしまうと、2人がプライベートの会話をしているようにしか見えなくなってしまうので、いけない。
 ここは一つ、その空気を読めなかったという作戦でいこう。
 とりあえず、2人に近づく少し前から声を出してやる。
「香月、今日は忘れ物ないか?」
「え、あ、はい。確認は、しました」
 その返事には少し不安が残っている。
「よし、なら飯でも行くか」
 さてどう出る宮下店長。
「飯……」
 香月は何を考えているのか、そこから返事がない。
「宮下店長もどうですか?」
 仕方なく助け舟を出してやる。
「いや、僕は他の誘いを受けてしまってるから……香月、気晴らしに行ったら?」
「……あ、はい……」
 うーん、読めないな……。
「何が食べたい?」
 聞いても言わないだろうが、一応聞いておく。
「……甘酸っぱいから揚げ」
「餡かけ?」
「なんとなく」
 香月は上目遣いで遠慮気味にも注文してくる。その視線に少しグッときてしまう自分が悔しい。
「いいよ、中華行こう。給料も入ったし、俺の奢りだ」
「えっ、本当ですか?」
 しかしその顔は喜んではいない、むしろ不安気だ。
「少人数限定だけどな」
「……でも、私に奢らさせてください。あの、だって……」
「それは気にするな。仕事だからな。飯はプライベートだ、プライベート」
 だからって2人きりのつもりはなかった。
 しかし、提案した時間が遅かったせいか、他の送迎会が入ってしまっていたせいか、近くの誰もこの誘いに乗らなかったのだから仕方ない。
「2人か……」
 最後の鍵を閉めながら、隣で待つ香月におもむろに呟いた。
「私はいいですよ」
 香月はどこも見ずに答える。これってまさか、誘われてんじゃないだろうな……。
 淡い期待を制しつつ、
「あ、えーと、駅前にしようと思うんだけど……」
「どのあたりですか?」
「ちょっと分かりにくいんだけどなあ……」
「じゃあ、あの、一緒に乗って行ってもいいですか?」
「あぁ、そうするか……けど車、どうする?」
 既に2人は駐車場の真ん中まで来ている。
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