絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「えーと、タクシーで帰ります。その方が近いので」
「明日朝困らない?」
「実は歩いてでも来れるくらい近いんですよ。だから明日は歩いて来ます」
「え、家この辺?」
「東京マンションです」
「へー、いい所に住んでるなあ! 」
「でもあそこ、ルームシェアだから。他人との雑居生活ですよ」
「……それはきついな……」
「変に慣れましたね、他人に」
「他人って女の人だろ?」
「ううん、うち、私だけなんです、女の人」
「えー!?……それは……それって相手、友達?」
「今は友達です。最初は全然知らない人だったけど。ほんと家族みたいですよ」
「へえー、香月ってこうなんか、さっぱりしてるのな」
「うーん、まあ、気にならないといえば嘘だけど……。すっぴんとか、パジャマとか。気にしたって逆に恥ずかしいかな。そんな、相手だって見たくないかもしれないし」
「そんなことはないと思うぞ」
 しまった、今日は下ネタは絶対に禁止だ。慌てて話題を変える。
「そういえば、あの車、誰のかな……ってもしかして香月!?」
 駐車場に残っているのは愛車の4WDと白のBMだけ。消去法ですぐに持ち主にたどり着く。
「あの白ですか?」
「うん」
「はい。もらい物です」
「もらい物……」
 その言葉を繰り替えしながら、ようやく2人は乗り込み、車を発進させる。
「香西副店長は……」
「もうそんな副店長なんかいらないよ」
「え?」
「いや、まあ仕事の延長だけどまあプライベートみたいなもんだからさ、外出たら別に、香西さんでいい」
「……いえ、そういうわけには……」
「なんかこう、もともと堅苦しいのが嫌いだから」
「……そう言われても……」
「言いにくい? 逆に(笑)」
「うーん、今の時間を仕事と思ってるとかそういう意味じゃなくて、あの、私の中で香西副店長はいつも副店長ですから。できればそのままで呼ばせてください」
「ふーん、あ、そう?」
「……はい……いけませんか?」
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