絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「香月」
「はい」
 スタッフルームの自動販売機で夕方休憩のジュースを一緒に買った後、なんとなく西野と香月は対面席に座り、長テーブルを挟む。
「俺に何か言うことあるだろ」
「え……」
「なになにー」
 香月が眉間に皺を寄せるなか、最高のタイミングで現れたのは玉越である。彼女は香月の右隣にさっと腰掛けると大きく身を乗り出した。
「何か隠し事があるんなら言いなさい」
「えっ?」
 今度は玉越を見つめて、頭の中をフル回転させる。
「この前聞いてびっくりした。そんな関係だったのか……。ちっとも知らなかったぞ」
「私もー、全然知らない」
「……何のこと?」
 玉越がこうやって話しを膨らませているだけなのか、本当に西野と同じことを聞きたいのか、それすらも分からない。
「姉さん、言ってやりな」
 西野は遠慮気味にも指示を出す。
「……、何を?」
 玉越は半笑いできょとんとする。
「知らねーのに話に入ってきてたのかよ!」
「いや、なんか面白そうだったから。ごめん、ごめん(笑)」
「あのことだよ……」
 西野の熱い視線を受けても、香月は
「え……?」
「……ただのデマなのかな。香月と寺山が付き合ってるってゆーの」
「えーーーーーーーー!?」
 玉越のえらく大きな声はスタッフルームのどこまでも響き渡る。
「静かに、静かに!」
 西野は顔の前で人差し指を立てて、口に手を当てて辺りを見回す玉越を強く睨む。
「また大きな声を出して、なんだ玉越」
 呼ばれてもないのに、堂々と西野の隣に腰掛けたのは矢伊豆であった。
「いや、えっと……変な噂を聞きました」
 玉越は目をくるりと回しながら喋る。
「どんな?」
 矢伊豆は午後6時のこの時間まで昼休憩に入れなかったようで、弁当にかじり付きながら問う。
「……」
 誰も何も言わない。何か言おうと西野が口を開いた瞬間、寺山美一は香月の左隣に腰掛けた。
 これまた堂々と、呼ばれてもないのに。
 特に驚いたのは玉越と西野である。2人は「あ」という一言を飲み込み、目を大きく見開いた。
「香月さん」
「……あ、はい」
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