絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「外で……。車まで歩きながら」
「……外……」
 寺山は思いもよらなかったのか、呟きながら外に出た。
「考えました」
 香月はすぐに最初の一言を出した。そうしないとすぐに自分のBMに到着してしまうからである。しかも、今日は早出だったので近くに車を停めてあった。
「うん」
「私、他に好きな人がいるんです。だから、ごめんなさい」
 こんなにはっきり断るのは珍しいと、自分で感心しながら沈黙を決め込む。
「……そっか。好きな人は恋人?」
「……いえ、単なる私の片思いです」
「俺、諦めないから」
「……」
 香月は立ち止まった。昼間の皆での会話が思い出される。
「ずっと好きだったんだ。入社してからずっと」
 調子のいい奴だと香月は呆れる。
「その間もずっと寺山さんと他の女の子が付き合ってるっていう話を聞いたことありましたよ。好きなのに他の女の人と付き合えるような人とは、私は付き合えません」
 ちょっと憤慨気味に放ってしまったことをすぐに後悔する。まるでそれが解消されるのなら付き合うと、聞こえはしないか。
 香月は、少し息を吐いて、歩き始めた。
「あー、噂。あれ全部噂だから。その、お客がどうとか、新人がどうとか、同期で調子いい奴がいていつもそんな噂流してるの。あんまり俺はそういうの気にしないから放っておいてるけど、そういうの、気になる?」
 やっぱりそう聞こえたんだ……。
「いえ、それが本当だとしても嘘だとしても、私は今はお付き合いはできません」
「今は?」
「今はそういう気持ちにはなれないんです。私は簡単には付き合おうとは思いません。だから、そういう気持ちになれない今は誰とも付き合わないんです」
「もし、好きな人が付き合おうって言ったら? それは付き合うの?」
 車まですぐ来てしまったので、香月は運転席のドアを開けた。
「どうかな……分からない」
 まず荷物だけ座席に入れた。
「じゃあまず友達からで。それでいいなと思ったら付き合って?」
「……」
 香月はどう言えば納得するのか考えるが、寺山はそれを押し切るように繰り返した。
「どうかな?」
「……。友達からと、言われても……そういうのじゃなくて、普通の友達なら……友達というか、同僚なら……」
「友達と同僚とどう違うの?」
 目を合わせるつもりはなかったが、一応、寺山の方に顔を向けた。
「例えば、2人きりで遊びに行ったりとかはしない」
 十分意思は伝えたはずだと、居心地の悪さを感じて車内に乗り込む。
「メールはいい?」
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