絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
それぞれの分岐点
 レイジがこの家からいなくなる。
 そんなこと、一度も考えもしなかった。
 彼は優しくて、いつも頼りになる。真剣で真面目で、まっすぐで、始点から終点までがずれない。わがままなところは確かにある。だけどそれも逆に可愛いと思えるくらいの、そのわがままが彼らしくて良いと思えるくらいの程度であったと、今になって思えてくる。
「これで本当に引っ越しなったらどうする?」
 ユーリは芸能人とは思えないほどの、だらけきった格好で、リビングのソファに横になって聞いてきた。リモコンを握って離さないのはいつもの癖だ。
「別にどうも……できないでしょ?」
「愛ちゃんの心的に、よ」
 しかし香月はこんな状況になりつつも、引っ越さない方が良いのかもしれない、と今更ながら少し思っていた。 
 例え同じ家で暮らしていても、この先2人は何も変わらない。例えレイジが荒れ狂い、ついてこなければ心中をすると言い出しても、香月が何かのきっかけで心動かされることがあろうとも、関係は変わらない。
 それを確信しただけに、そのままの方が2人にとって良かったのかもしれないと思い始めたのだ。
 その方が、彼がこちらのことを好きだったということを、いつの間にか忘れて、本当の家族になれる気がした。
 家族になりたかった。
 家族でありたかった。
 レイジという人のことは本当に好きなのだと思う。
 彼が新しい物件を探し当てた後、すぐにそう思った。
 今まで彼に対してどんな感情も抱いたことがなかったのに、彼が離れていくと知った途端、彼と家族になりたいと、少し思ってしまったのだ。
「なあ、どう?」
「えー……」
 ユーリの質問をもう一度思い出す。
「私の心、的に……」
「そ、付き合うつもりとかやっぱないん?」
「嫌いじゃないけどね……もし、そうだなあ。例えば、出会い方とか色々違っていたら、それは分からなかったけど、今こうやってこんな風に出会って、それで、付き合わないの? って聞かれたら、それはないと思う」
「……変わらんかったなあ、その気持ち。この一年」
「……そうだね。この先も多分、変わらない、かな……」
「じゃあやっぱり良かったんかもなあ、この引っ越し」
「家族としてはいい人だったと思うの……」
 そこで、本音を言うのはやめた。
「次の新しい人の話、聞いてる?」
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