絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「いいのですよ、そんなこと」
「いえ、そんなことではありません。車をいただいて、私はとても助かっています」
助かるの使い方があっているのかどうか、一瞬気になる。
「どうも、ありがとうございました。本当に……」
深々と頭を下げるのはサービス業なら日常のこと、無意識でも自然にできてしまう。
「ええ、そんなにお礼を言われると、差し上げた甲斐というものがあります」
「……あ、いえ……」
「では、今日はこれで」
「あ、呼び止めてしまってすみませんでした」
「大丈夫ですよ。では、おやすみ」
「はい、おやすみなさい……」
二度目のおやすみは、少し急いだ様子で……まだ仕事が残っているのだろう。少し悪いことをしたな……。
その夜はその日の仕事の疲れもあって、ここがどこでどういう場所なのかという心配もよそにふかふかのベッドでぐっすり眠れた。
問題はその次の日である。セイ・リュウ様、バースデイパーティ当日。
香月はまだこの人物がどんな人間であるのか、よく知らなかった。だって、誰も教えてくれないのだもの、仕方ない。
誰か、ちゃんと教えてくれていればこんなことにはならずにすんだのに……。
「よく眠れましたか?」
「はい、ぐっすり」
香月は何も考えずに目の前の美人にただにっこりと笑う。あのふかふかのベッドで眠る。それだけでここに来た価値は十分にあっただろうと思った。それ以上の期待はしない、と強く自分に言い聞かせる。
長い廊下と階段を、2人の黒尽くめのボディガードを後ろに従えて歩く。目指すはシューティング場。
彼はその間静かに香港という町がどんな町であるかということを丁寧に説明してくれた。美味しい料理、気候、風土、それから自らの城。話は聞いていても飽きず、すぐに会場に着いてしまう。
あぁそうだ、中国人だということを忘れていた。
午後3時、2組だけお客がいるだだっ広い空間は以外に薄暗く、20メートルほど離れた的も真ん中の赤い丸が見える程度。ここからあんな小さいものを狙うのは相当な目が必要だと素人でもすぐに分かる。
「初めてなのですよね?」
「はい」
「小さなガンほど力が必要ですが、これくらいでどうでしょう」
彼自らが選んだガンは25センチほどの大きさではあるが、軽い玩具のように見える。
「うわっ、意外に重いんですね!」
しかし持ってみるとかなり重い。そりゃそうだ、プラスチックではない。本物さながら鉄でできている。
「でしょう? 見本を見せましょう」
「いえ、そんなことではありません。車をいただいて、私はとても助かっています」
助かるの使い方があっているのかどうか、一瞬気になる。
「どうも、ありがとうございました。本当に……」
深々と頭を下げるのはサービス業なら日常のこと、無意識でも自然にできてしまう。
「ええ、そんなにお礼を言われると、差し上げた甲斐というものがあります」
「……あ、いえ……」
「では、今日はこれで」
「あ、呼び止めてしまってすみませんでした」
「大丈夫ですよ。では、おやすみ」
「はい、おやすみなさい……」
二度目のおやすみは、少し急いだ様子で……まだ仕事が残っているのだろう。少し悪いことをしたな……。
その夜はその日の仕事の疲れもあって、ここがどこでどういう場所なのかという心配もよそにふかふかのベッドでぐっすり眠れた。
問題はその次の日である。セイ・リュウ様、バースデイパーティ当日。
香月はまだこの人物がどんな人間であるのか、よく知らなかった。だって、誰も教えてくれないのだもの、仕方ない。
誰か、ちゃんと教えてくれていればこんなことにはならずにすんだのに……。
「よく眠れましたか?」
「はい、ぐっすり」
香月は何も考えずに目の前の美人にただにっこりと笑う。あのふかふかのベッドで眠る。それだけでここに来た価値は十分にあっただろうと思った。それ以上の期待はしない、と強く自分に言い聞かせる。
長い廊下と階段を、2人の黒尽くめのボディガードを後ろに従えて歩く。目指すはシューティング場。
彼はその間静かに香港という町がどんな町であるかということを丁寧に説明してくれた。美味しい料理、気候、風土、それから自らの城。話は聞いていても飽きず、すぐに会場に着いてしまう。
あぁそうだ、中国人だということを忘れていた。
午後3時、2組だけお客がいるだだっ広い空間は以外に薄暗く、20メートルほど離れた的も真ん中の赤い丸が見える程度。ここからあんな小さいものを狙うのは相当な目が必要だと素人でもすぐに分かる。
「初めてなのですよね?」
「はい」
「小さなガンほど力が必要ですが、これくらいでどうでしょう」
彼自らが選んだガンは25センチほどの大きさではあるが、軽い玩具のように見える。
「うわっ、意外に重いんですね!」
しかし持ってみるとかなり重い。そりゃそうだ、プラスチックではない。本物さながら鉄でできている。
「でしょう? 見本を見せましょう」