絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「そうだね……」
「産む前、こうなることが、予測できなかったわけじゃない。まあ、これほど大変なことだとは確かに正直思ってなかったけど。
だけど、産むって言うから、応援してやるとしか言えなくて……」
「……うん」
「できる限り手伝ってやるから、って言ったからには、手伝ってやろうとは思うんだけど、なんか、そういうお願いになってきたら、どう想っていいのか……けど、同情とか関係なく、子供をきちんと育てられる大人が必要だと思うんだ。それが、俺なのかどうかはよくわからないけど、俺でも、悪い気はしない、というか……」
「……」
喋れるだけ喋って、遠くを見つめた。独身の香月に真剣に相談しても、大した回答が出ないことは、心の底では最初から分かっていた。
だが、気分は非常に清清しかった。秘密を、香月と2人で共有できたことに対する、満足感からかもしれない。その沈黙に満たされていたが、しばらくして香月はようやく口を開いた。
「私、好きな人がいてね」
「え?」
突然の話題転換に、その横顔を見つめることしかできなくなる。
「いや、関係ある話だから。
で、その人、自分の子じゃないけど、親しかった女の人が妊娠したからって父親になってあげたの。私と付き合ってたのに、わざわざ別れて」
香月の衝撃のプライベート告白に、
「え?」
としか言いようがない。
「違うの、昔の話なのよ。私がまだ学生の頃の話」
「あ、あぁ……」
「だけど結局離婚したわ……ごめん、あんまり関係なかったかもしれない」
「いや……そんなことないよ。実際そんな人もいるんだな……」
「うん、そう。まあ、背景は少し違うけど、粗筋は似てる。けど、結局は別れたからね……。多分うまくいかないよ、夫婦としては」
そうだ、由佳も子供のことを考えて父親の話を出してきたんだろうが、父親になると同時に夫婦になるということまで考えてはいないだろう。
「そうだね……今は、とりあえずその子が保育園とかに預けられるまで頑張ってみて、その後その女の子が働くようになったら収入もあるし、違ってくると思うけど」
「保育園……、あと2、3年か……」
「ううん、詳しくは分からないけど、赤ちゃんでも預けられると思う。主婦の人とか結構預けてるよ」
「あれ、そうなの?」
「うん。で、ね。そうやって働きに出たりしたら色んな出会いもあるだろうし、その子に合った人っていうのも多分現れるよ、きっと」
「なるほどなあ……」
思ってもみない、現実的な解決口に明るい未来を感じた。自然に笑顔になれる。
「保育園に預けて働きに出れば、パートで少しでも働けばいいしな。今は家にずっといるからいけないんだ。あそうか……そうか、その手があったのか……」
どうして早く相談しなかったのかと、悔しくもなる。
「心配したよ、昼間、ものすごく真剣な顔してたから」
「産む前、こうなることが、予測できなかったわけじゃない。まあ、これほど大変なことだとは確かに正直思ってなかったけど。
だけど、産むって言うから、応援してやるとしか言えなくて……」
「……うん」
「できる限り手伝ってやるから、って言ったからには、手伝ってやろうとは思うんだけど、なんか、そういうお願いになってきたら、どう想っていいのか……けど、同情とか関係なく、子供をきちんと育てられる大人が必要だと思うんだ。それが、俺なのかどうかはよくわからないけど、俺でも、悪い気はしない、というか……」
「……」
喋れるだけ喋って、遠くを見つめた。独身の香月に真剣に相談しても、大した回答が出ないことは、心の底では最初から分かっていた。
だが、気分は非常に清清しかった。秘密を、香月と2人で共有できたことに対する、満足感からかもしれない。その沈黙に満たされていたが、しばらくして香月はようやく口を開いた。
「私、好きな人がいてね」
「え?」
突然の話題転換に、その横顔を見つめることしかできなくなる。
「いや、関係ある話だから。
で、その人、自分の子じゃないけど、親しかった女の人が妊娠したからって父親になってあげたの。私と付き合ってたのに、わざわざ別れて」
香月の衝撃のプライベート告白に、
「え?」
としか言いようがない。
「違うの、昔の話なのよ。私がまだ学生の頃の話」
「あ、あぁ……」
「だけど結局離婚したわ……ごめん、あんまり関係なかったかもしれない」
「いや……そんなことないよ。実際そんな人もいるんだな……」
「うん、そう。まあ、背景は少し違うけど、粗筋は似てる。けど、結局は別れたからね……。多分うまくいかないよ、夫婦としては」
そうだ、由佳も子供のことを考えて父親の話を出してきたんだろうが、父親になると同時に夫婦になるということまで考えてはいないだろう。
「そうだね……今は、とりあえずその子が保育園とかに預けられるまで頑張ってみて、その後その女の子が働くようになったら収入もあるし、違ってくると思うけど」
「保育園……、あと2、3年か……」
「ううん、詳しくは分からないけど、赤ちゃんでも預けられると思う。主婦の人とか結構預けてるよ」
「あれ、そうなの?」
「うん。で、ね。そうやって働きに出たりしたら色んな出会いもあるだろうし、その子に合った人っていうのも多分現れるよ、きっと」
「なるほどなあ……」
思ってもみない、現実的な解決口に明るい未来を感じた。自然に笑顔になれる。
「保育園に預けて働きに出れば、パートで少しでも働けばいいしな。今は家にずっといるからいけないんだ。あそうか……そうか、その手があったのか……」
どうして早く相談しなかったのかと、悔しくもなる。
「心配したよ、昼間、ものすごく真剣な顔してたから」