絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
この、自分に全く関係のない子供を見て、何故か思い出すのは榊の顔であった。
まさか、榊の子ではない。どこも、全く似てはいない。
「この子の父親、見たことある?」
キッチンで哺乳瓶を洗う西野に言いかけて、やめる。そんなこと、今はどんなだっていい。
小さく白く、そしてやわらかな肢体を膝に抱いて、香月はこの温かなぬくもりを榊は手にしたことがないのだ、と深く考える。もし、あの時、妻が流産しなければ、あの夫婦は今もやはり夫婦でいたのだろうか?
「何食う?」
西野はキッチンからリビングに入りながら機嫌よく聞いてくる。
「えーと……マクド?」
「え、そんなんでいいの?」
「それが一番楽かなあ、と」
「いや、今日は作るつもりなんだ。最近全然ろくなもん食ってなかったから。あ、香月が面倒みててくれるんならの話なんだけど」
「え、あ、それはいいけど……」
リビングで2人はソファの前の地べたに座ってまるで夫婦のように、白い赤ん坊を覗き込む。
「やっぱ作る時間ないじゃん。食べる時間もないときあるくらいだし。だから、最近はメンバー全員外食か、惣菜。けど女子大生ったらまだ成長期だから、そんなんばっかじゃダメだなあって」
「その、2階の女の子は自分では作らないの?」
「時々はな。今は試験期間中だから全く。2週間くらいあるのかな。ま、勉強熱心なのはいいかなって」
「そだね……」
「うん……」
赤ん坊の名前は「陽太」と母親が名づけていた。それにどんな意味がこめられているのか、香月は知らない。
「……寝た……」
さきほどからただ、西野に教えられたように抱いていただけなのに、赤ん坊はすんなりと目を閉じ、寝息をたてはじめる。
「今日は珍しい人が相手してくれてたから疲れたのかな」
「え、何もしてないよ?」
「いや、いつもと抱き方が違うとか、そういうことでちょっと変わったりするんだよ」
「へえ……」
「もうしばらく抱いておいてから、そこ寝かそう」
「うん」
「俺、飯作るけど、いい?」
「うん、もちろん」
「カレーだけど」
「いいよ(笑)」
香月は笑って返す。実は今日は9時までの出社であった。シフトを7時までと見間違えていたのである。出社して早々そのことに気づき、ショックを受けた上、西野への詫びが思いつかなかった、代わりに、
「み、宮下店長……、すみません……」
「何?」
まさか、榊の子ではない。どこも、全く似てはいない。
「この子の父親、見たことある?」
キッチンで哺乳瓶を洗う西野に言いかけて、やめる。そんなこと、今はどんなだっていい。
小さく白く、そしてやわらかな肢体を膝に抱いて、香月はこの温かなぬくもりを榊は手にしたことがないのだ、と深く考える。もし、あの時、妻が流産しなければ、あの夫婦は今もやはり夫婦でいたのだろうか?
「何食う?」
西野はキッチンからリビングに入りながら機嫌よく聞いてくる。
「えーと……マクド?」
「え、そんなんでいいの?」
「それが一番楽かなあ、と」
「いや、今日は作るつもりなんだ。最近全然ろくなもん食ってなかったから。あ、香月が面倒みててくれるんならの話なんだけど」
「え、あ、それはいいけど……」
リビングで2人はソファの前の地べたに座ってまるで夫婦のように、白い赤ん坊を覗き込む。
「やっぱ作る時間ないじゃん。食べる時間もないときあるくらいだし。だから、最近はメンバー全員外食か、惣菜。けど女子大生ったらまだ成長期だから、そんなんばっかじゃダメだなあって」
「その、2階の女の子は自分では作らないの?」
「時々はな。今は試験期間中だから全く。2週間くらいあるのかな。ま、勉強熱心なのはいいかなって」
「そだね……」
「うん……」
赤ん坊の名前は「陽太」と母親が名づけていた。それにどんな意味がこめられているのか、香月は知らない。
「……寝た……」
さきほどからただ、西野に教えられたように抱いていただけなのに、赤ん坊はすんなりと目を閉じ、寝息をたてはじめる。
「今日は珍しい人が相手してくれてたから疲れたのかな」
「え、何もしてないよ?」
「いや、いつもと抱き方が違うとか、そういうことでちょっと変わったりするんだよ」
「へえ……」
「もうしばらく抱いておいてから、そこ寝かそう」
「うん」
「俺、飯作るけど、いい?」
「うん、もちろん」
「カレーだけど」
「いいよ(笑)」
香月は笑って返す。実は今日は9時までの出社であった。シフトを7時までと見間違えていたのである。出社して早々そのことに気づき、ショックを受けた上、西野への詫びが思いつかなかった、代わりに、
「み、宮下店長……、すみません……」
「何?」