絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「あ、おはようございます」
「おはよう」
「あの、今日なんですけど、ろ、6時ぃあがりでも……いいですか?」
「6時? もともとは何時?」
「9時です」
「何か用? 今日は人が少ないからあんまり帰らせたくはないけど」
「……は、8時まででもですか?」
「どんな用? 体調が悪いのか?」
「えーと……」
香月は5秒考えて、ようやく
「えーと、その、どういえばいいのか、あの、その、まあ、簡単に言えば、西野さんのお見舞い、というか……」
「西野? 見舞いってどうした?」
「あ、えーとあの、昨日から体調悪いとかで、今日も休むって言ってたので……」
「あそう。聞いてないな……誰か聞いてるのかな」
「多分……」
「ふーん、9時上がりで行ったら?」
「そう、ですよね……」
「なになになになにー」
「なんでもない」
背後から独特の絡みで現れたのは玉越であった。
「あ、今日玉越さん早上がりだったら、交代してもいいですか!?」
「え、私8時だけど」
「えっと、8時でもいいんです!」
「えー何、なんか用?」
「私、西野さんのお見舞いに行きたくて」
「西野? 見舞いってどしたの?」
「いや、多分、ただの風邪くらいだと思うんですけど、今日休んでるって言うんでちょっと……」
「へえー、あ、そうなの?」
「そうなんです」
「ふーん」
玉越は何をどうしたのか、にやにや不気味に微笑みはじめる。
「いいですよね、私となら別に」
簡単に言ったが、逆に宮下は厳しい表情になり、
「そんないい加減な理由で変更できるようなシフトじゃない」
それだけ一言言うとさっとその場を立ち去った。それがわざと怒りを込めた演出だったのか、本当にそれぐらい腹が立ったのか、単に用事を思い出しただけなのかは分からない。
「えー、別にいいじゃんね?」
「うん……」
西野に9時上がりになった、と詫びるしかない。詫びればいい。だが、昨日、深夜にかかってきた電話口の声のことを思い出すと、そうも言えず、ただ携帯電話のディスプレイを眺めるだけで午前中はいつも通り過ぎた。
昼、香月はついに決心をして、宮下が一人の時を狙い、ついに話しかけた。
「あの、宮下店長」
「はい」
「おはよう」
「あの、今日なんですけど、ろ、6時ぃあがりでも……いいですか?」
「6時? もともとは何時?」
「9時です」
「何か用? 今日は人が少ないからあんまり帰らせたくはないけど」
「……は、8時まででもですか?」
「どんな用? 体調が悪いのか?」
「えーと……」
香月は5秒考えて、ようやく
「えーと、その、どういえばいいのか、あの、その、まあ、簡単に言えば、西野さんのお見舞い、というか……」
「西野? 見舞いってどうした?」
「あ、えーとあの、昨日から体調悪いとかで、今日も休むって言ってたので……」
「あそう。聞いてないな……誰か聞いてるのかな」
「多分……」
「ふーん、9時上がりで行ったら?」
「そう、ですよね……」
「なになになになにー」
「なんでもない」
背後から独特の絡みで現れたのは玉越であった。
「あ、今日玉越さん早上がりだったら、交代してもいいですか!?」
「え、私8時だけど」
「えっと、8時でもいいんです!」
「えー何、なんか用?」
「私、西野さんのお見舞いに行きたくて」
「西野? 見舞いってどしたの?」
「いや、多分、ただの風邪くらいだと思うんですけど、今日休んでるって言うんでちょっと……」
「へえー、あ、そうなの?」
「そうなんです」
「ふーん」
玉越は何をどうしたのか、にやにや不気味に微笑みはじめる。
「いいですよね、私となら別に」
簡単に言ったが、逆に宮下は厳しい表情になり、
「そんないい加減な理由で変更できるようなシフトじゃない」
それだけ一言言うとさっとその場を立ち去った。それがわざと怒りを込めた演出だったのか、本当にそれぐらい腹が立ったのか、単に用事を思い出しただけなのかは分からない。
「えー、別にいいじゃんね?」
「うん……」
西野に9時上がりになった、と詫びるしかない。詫びればいい。だが、昨日、深夜にかかってきた電話口の声のことを思い出すと、そうも言えず、ただ携帯電話のディスプレイを眺めるだけで午前中はいつも通り過ぎた。
昼、香月はついに決心をして、宮下が一人の時を狙い、ついに話しかけた。
「あの、宮下店長」
「はい」