絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
彼は朝のことなど忘れたように、いつもどおりの無表情をこちらに向ける。
「すみません、やっぱり今日はどうしても早上がりにさせてください。あの、理由は本当はあるんです。あるんですけど、今は言えないんです。でも、後で必ず言います。本当に大事なことなんです。本当に……」
西野のことだと言おうかどうかフルで悩む。
「……西野のこと?」
「……あの、そうなんですけど……」
「今回だけだぞ。玉越に今日は9時までいてもらう」
「すみません、本当にありがとうございます」
「理由は別にいいよ、今日玉越が一時間残業することに変わりないから」
重く、言葉がのしかかる。
「いえ、後で必ず、相談に乗ってもらわないとダメかもしれないんです。分からないけど、けど……」
「何のこと?」
宮下は真剣な表情でまっすぐにこちらを覗き込む。
「……」
香月はもう少しで口を開きそうになったが、西野が仮病を使っていることを思い出し、
「なんか、大袈裟に聞こえるかもしれないけど、全然そんなあの、どういえばいいか……あの、とにかくすみません、必ず後で言います!」
本当にそんな約束して大丈夫だろうか?
少し心配に思ったがその言葉を言い放つしか、もう他に方法はなかった。
そのことを西野に言ったら、必ず渋い顔をするだろう。さて、どういう風にもっていくべきか……。
悩んでいる間に赤ん坊はぐっすりと眠り、西野に指定された小さな布団の上に寝かせても全く起きない。ここへ来て一番に風呂に入り、ミルクを飲んで寝たということは、このまましばらく起きないのだろうか。
意外にも早くカレーの匂いがキッチンから漂ってくる。
香月は腰を上げた。
「あれ、もうできてるんだ」
「ちょっと煮込んであったからな、もう味付けだけするように」
「すごい! まめだねえ」
「たまにはな」
西野はカレーの味に満足したのか、小皿をすするとにこっと笑い、ガスの火を止めた。
ダイニングテーブルに二つのカレーライスを乗せて、2人は静かに夕食を取り始めた。
カレーは予想以上の出来だったため、香月はにこやかに笑い、「おいしい」と素直にスプーンを口に運んだ。その隣では、赤ん坊がすやすやと眠っている。
「他の、女の子は今はどこにいるの?」
「部屋かな。みんな夜はあんま食わねーんだよ、ダイエットとかって」
「へえ、そうなんだ」
「だからこのカレーも明日の朝食べると思う」
「朝からカレー??」
「朝食べると脳にいいって。確かにそうだけど(笑)」
「徹底してるねえ(笑)」
そこで、コップの麦茶で口直しをして、香月は赤ん坊を愛おしそうに眺める西野に切り出した。
「あのね、私、考えたんだけどね」
「すみません、やっぱり今日はどうしても早上がりにさせてください。あの、理由は本当はあるんです。あるんですけど、今は言えないんです。でも、後で必ず言います。本当に大事なことなんです。本当に……」
西野のことだと言おうかどうかフルで悩む。
「……西野のこと?」
「……あの、そうなんですけど……」
「今回だけだぞ。玉越に今日は9時までいてもらう」
「すみません、本当にありがとうございます」
「理由は別にいいよ、今日玉越が一時間残業することに変わりないから」
重く、言葉がのしかかる。
「いえ、後で必ず、相談に乗ってもらわないとダメかもしれないんです。分からないけど、けど……」
「何のこと?」
宮下は真剣な表情でまっすぐにこちらを覗き込む。
「……」
香月はもう少しで口を開きそうになったが、西野が仮病を使っていることを思い出し、
「なんか、大袈裟に聞こえるかもしれないけど、全然そんなあの、どういえばいいか……あの、とにかくすみません、必ず後で言います!」
本当にそんな約束して大丈夫だろうか?
少し心配に思ったがその言葉を言い放つしか、もう他に方法はなかった。
そのことを西野に言ったら、必ず渋い顔をするだろう。さて、どういう風にもっていくべきか……。
悩んでいる間に赤ん坊はぐっすりと眠り、西野に指定された小さな布団の上に寝かせても全く起きない。ここへ来て一番に風呂に入り、ミルクを飲んで寝たということは、このまましばらく起きないのだろうか。
意外にも早くカレーの匂いがキッチンから漂ってくる。
香月は腰を上げた。
「あれ、もうできてるんだ」
「ちょっと煮込んであったからな、もう味付けだけするように」
「すごい! まめだねえ」
「たまにはな」
西野はカレーの味に満足したのか、小皿をすするとにこっと笑い、ガスの火を止めた。
ダイニングテーブルに二つのカレーライスを乗せて、2人は静かに夕食を取り始めた。
カレーは予想以上の出来だったため、香月はにこやかに笑い、「おいしい」と素直にスプーンを口に運んだ。その隣では、赤ん坊がすやすやと眠っている。
「他の、女の子は今はどこにいるの?」
「部屋かな。みんな夜はあんま食わねーんだよ、ダイエットとかって」
「へえ、そうなんだ」
「だからこのカレーも明日の朝食べると思う」
「朝からカレー??」
「朝食べると脳にいいって。確かにそうだけど(笑)」
「徹底してるねえ(笑)」
そこで、コップの麦茶で口直しをして、香月は赤ん坊を愛おしそうに眺める西野に切り出した。
「あのね、私、考えたんだけどね」