絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「うん」
 西野は真剣な顔でこちらを見る。
「誰かに相談した方がいいと思うの。結婚して、子供がいる人に」
「……うん……」
「で、シフトもそうじゃん」
「……うん、そうだな……」
「私、考えたんだけどね、仲村副店長とか、どうかな」
「なんで?」
「あの人、結婚して子供いるし、とりあえず、宮下店長にいきなり話してというよりはワンクッション欲しいなって思ったの、それに宮下店長は子供がいないからそういう話は分からないと思うし」
「まあ、副店長の中では一番家庭的な気がするかな……」
「香西副店長も独身だし」
「さあ、あの人はどうかな……」
「私も、ちょっと苦手なのよね、結構怒られるし(笑)」
「へー、そうなの?」
「一番厳しいよ、はっきり叱られる感じ」
「俺もあんまりだから、プライベートのことは全然だなぁ、知らない」
「でね、実は仲村副店長明日休みになってるの。だから、明日相談したらどうかなって。早い方がいいでしょ?」
「うん……え、仲村副店長には何も言ってないよな?」
「誰にも何も言ってないよ」
 確かに、誰にも何も言ってはいない。
「……」
 西野はどこにも視点をあわせず、ただひたすら考えることに集中しているようで、身動きひとつしない。
「…………どうする?」
 沈黙を破るために、香月はようやく質問を投げかけた。
「……このまま悩むよりはましかな」
「うん」
「実はな」
「うん」
 何かを覚悟しようと思ったが、西野は間を待たずに次の言葉を出した。
「その、女子大生にな、母親から電話があったらしくて。この子を頼むって。
 完全に俺に任されたようなもんなんだ」
「えっ、そうなの……そうか……でも、あれだよ。どうすればいいかわからないよりは、ちゃんと自分がどうできるか決められた方が、いい方に進むよ、必ず」
 動揺のなか、言葉を選びながら励ましたつもりだが、西野はそれには何も反応せず、ただ、
「仲村副店長か……、朝、電話しようかな……」
 とだけ小さく言った。

 
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