絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 仲村は自車を運転しながら、今朝の西野の声を思い出しながらぐるぐると妄想を抱いていた。
『あの……、相談したいことがあるんです。電話ではあれなんで、直接話したいんですけど、大丈夫ですか。今日、お休みなんですよね?』
「え? どうした?(笑)。……いいには、いいけど……」
『で、ちょっと僕、動けないんで、できたら家に来て欲しいんです、すみません』
「え、動けないって、体は大丈夫なのか!?」
『はい、それは大丈夫なんですけど……』
「え……そうか……、分かった。行って話を聞こう……えーと、悪いが今日は朝から用事があってな。夜になるけどいいか?」
『何時くらいですか?』
「8時……くらいかな。いいか?」
『多分大丈夫かと思います。なるべく大丈夫なようにしておきます』
「? ……分かった。じゃぁな、気をつけてな」
 自分でも何に対する「気をつけて」だと思ったが、動けないということは、体に何か異変があったに違いない、それしか考えられなかったのだ。
 包帯でぐるぐるに巻かれた西野が……自宅で? それほどの重症なら病院のはずだ……ということは、内科? それにしても突然すぎるな……。
 状況が全く分からない。
 とりあえず、昼間の予定をこなし、約束通り午後8時15分前に西野に教えられた自宅近くの駐車場に車を停めて、歩いた。この辺りの土地勘は全くないが、どこにでもあるような住宅街に違いはない。
 築15年くらいだろうか。指示通りの家といったらここになる。表札にはNISHINO以下3名の苗字がかかげられており、ここであることを再度確認する。
 ある程度の覚悟をして、インターフォンを鳴らす。
 先にドアホンで会話かな、と予測していたが、意外にもすぐにドアが開いた。
「こっ……」
「こんばんわ、仲村副店長」
「えっ、香月?」
 見舞いか? という妄想の一言を押さえ、
「西野は?」
「中にいます。どうぞ。って他人の家ですけど」
 私服の香月が西野の自宅に?
 全く予想外の意味不明の展開の中、靴を脱ぎ、廊下を進む。小ぢんまりした一軒屋だが、そこそこ掃除もしているようだし、若々しい装飾がその辺りにちらばっている。玄関にも若い女性の靴がいくつもあった。
 そして、西野を見た瞬間、一気に謎が解けた。
「こんばんは、すみません、こんな格好で……」
「香月の子?」
 香月に尋ねる。
「違いますよ!」
「まさかそうくるとはなあ(笑)」
 西野も笑顔で赤ん坊にミルクを飲ませ続けている。
「え、だって……誰の子?」
「それで、相談しようと思ったんです。すみません、こんな小さい子供がいると外にも出られないし……」
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