絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「え……」
 香月は小さく声を出す。
 仲村はその無謀ともいえる西野の意見にいたく感動したが、すぐに静かに口を開いた。
「西野、お前は優しい奴だと思うよ。それが、もしかしたら、いい方向に行くかもしれない。
 だけど、西野の人生はそれでいいのか?
 未婚男性、子持ち。大変だと思うぞ。仕事は、今の会社がダメでもお前ならどこへでもいけるだろう。
 だけど大変だぞ。もしかしたらもう結婚できないかもしれない。彼女だってなかなか作れないだろうし、遊びにだって行けない。
 子供ができたら本当に大変だぞ。20歳過ぎて独立するまでは、自分の時間はない。全ては子供の責任のためだ」
 若い2人は黙ってしまう。しかし、重すぎる言葉ではない。
 それが現実だ。西野の考えは感傷的で、まだまだ甘い。
「そう……ですよね」
 良かった、とりあえず通じたようだ。
「もしかしたら、その子の親になりたいという人だっているかもしれない。妻に聞いてみるよ、登録とかどういう風にすればいいのか」
「あ、いえ、その施設の名前だけ教えていただければ、自分でなんとかします」
「いや、ちゃんとした人探したいしな。頼んでみるよ」
「すみません……ありがとうございます……」
「いや、いいよ、来てよかった」
 仲村は思ったままを言う。
「最初香月が出てきたときはびっくりしたけど」
「私は、私の子供って疑われたときが一番ビックリしました」
「そりゃ間違えるよ、玄関に若い靴があるし、香月が出てくるし、西野が赤ん坊抱いてるし……」
「でもまさかねえ」
 香月は笑いながら西野を見たが、まだ彼は何かから離れられない様子で、
「……そうだな」
 と苦笑いしただけだった。
「どうする? どんな感じなんだ? すぐにでも預けられればいいんだが、明日シフトは?」
「フルです」
「……他に見てくれる人はいないよな……どうする? しばらく有給で組んでもらうか? 宮下店長に相談してもいいなら、だけど」
「……そうですね、一週間くらいできるだけ休みとれれば……どうにかできるかな、とちょっと思ったんですけど」
「そうだな、それで相談してみよう。すぐ相談した方がいい」
「はい」
 とりあえずは落ち着いたか。と、西野から目を逸らして隣の香月を見る。
 意外にも彼女はこちらを見ていたので少し驚いた。
「何?」
「いや、やっぱり仲村副店長に相談してよかったなあって、改めて思っていました」
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