絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
『……まだ一時間くらいは無理かな。……飯でも行くか?』
「宮下店長の家に行ってもいいですか?」
『それはまずい』
即答に戸惑う。
「外じゃ話せません。お願いします。それくらい重要な話なんです。私、一大決心をしたんです……お願いします。聞いてください。誰かに知られると、本当に……だめなんです……」
『どんな話? 概要だけ先に聞こう』
「……周りに誰もいませんか?」
『いないよ、今店長室。誰もいない』
「……玉越さんのことで、江角さんに強請られて困っています」
『……それ……』
宮下は続きを何も言わない。
「私、もう無理なんです……。言いたくなかった。誰にも言いたくなかったけど、私、どこまで耐えていいのか分かりません……」
『分かった。分かった、話を聞こう。いいよ、家で。ええと、そうだな、香月の家は?』
「うちはダメです、真籐さんがいるから」
『ああそうか、……そうか……分かった。……今どこ?』
「ロビーにいます。自宅の」
『じゃあ、マンションに帰りに寄ろうか?』
「いえ、一度出ます。ファミレスがあるの、分かります?」
『ああ、分かる』
「そこで待ってます」
『大丈夫か? 気をつけろよ、夜なんだし』
「大丈夫です。明るいですから」
『いや、待て。よくない。そこにいた方がいい。その辺だろう、前連れ去られそうになったの。そこで待ってた方がいい。終わったらまた電話する。いいな、そこにいるんだぞ』
「……はい」
軽く一時間はある。そんな長い時間をロビーで過ごすのは難しい。
「はい」
それでも、返事は「はい」しかない。
仕方なく時間潰しに、自販機で冷たいコーヒーを買う。ロビーで長時間座っている時にオレンジジュースはないだろうと、ちょっとした見栄でもある。
そして約束の11時、まだ宮下から電話はない。仕方なく外に少し出て歩いてみたり、うろうろしながら、後30分かかってもここで待つしかないことに溜息をつく。
ところが、30分してもまだ携帯は鳴らず、一度自宅に戻ろうかどうか本気で考え始めた頃、ようやく携帯が光り、次に音が鳴った。
『もしもし?』
「もしもし! 遅かったですね」
『あぁ、悪い、ちょっと誤差が出てな』
「今か出たから、すぐだよ」
『はい、待ってます』
「宮下店長の家に行ってもいいですか?」
『それはまずい』
即答に戸惑う。
「外じゃ話せません。お願いします。それくらい重要な話なんです。私、一大決心をしたんです……お願いします。聞いてください。誰かに知られると、本当に……だめなんです……」
『どんな話? 概要だけ先に聞こう』
「……周りに誰もいませんか?」
『いないよ、今店長室。誰もいない』
「……玉越さんのことで、江角さんに強請られて困っています」
『……それ……』
宮下は続きを何も言わない。
「私、もう無理なんです……。言いたくなかった。誰にも言いたくなかったけど、私、どこまで耐えていいのか分かりません……」
『分かった。分かった、話を聞こう。いいよ、家で。ええと、そうだな、香月の家は?』
「うちはダメです、真籐さんがいるから」
『ああそうか、……そうか……分かった。……今どこ?』
「ロビーにいます。自宅の」
『じゃあ、マンションに帰りに寄ろうか?』
「いえ、一度出ます。ファミレスがあるの、分かります?」
『ああ、分かる』
「そこで待ってます」
『大丈夫か? 気をつけろよ、夜なんだし』
「大丈夫です。明るいですから」
『いや、待て。よくない。そこにいた方がいい。その辺だろう、前連れ去られそうになったの。そこで待ってた方がいい。終わったらまた電話する。いいな、そこにいるんだぞ』
「……はい」
軽く一時間はある。そんな長い時間をロビーで過ごすのは難しい。
「はい」
それでも、返事は「はい」しかない。
仕方なく時間潰しに、自販機で冷たいコーヒーを買う。ロビーで長時間座っている時にオレンジジュースはないだろうと、ちょっとした見栄でもある。
そして約束の11時、まだ宮下から電話はない。仕方なく外に少し出て歩いてみたり、うろうろしながら、後30分かかってもここで待つしかないことに溜息をつく。
ところが、30分してもまだ携帯は鳴らず、一度自宅に戻ろうかどうか本気で考え始めた頃、ようやく携帯が光り、次に音が鳴った。
『もしもし?』
「もしもし! 遅かったですね」
『あぁ、悪い、ちょっと誤差が出てな』
「今か出たから、すぐだよ」
『はい、待ってます』