絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「まあ、獲得件数が多いことは知っていたが……」
 それはちゃんと数字として出るので当然である。
 香月は続けた。
「ところがある日、カード会社の、営業の人、中田さんが売り場でだらだら話しかけてきて……分かります?」
「なんとなく」
「新しい人です。年明けてから来たような人なんですけど」
「見れば思い出す」
「……はい、で、その人がよく話しかけてくるので、その日もなんとなく話をしていたら、『体でカードを取る人もいるんですよ』みたいな変な話をし始めて。けど私は興味もなかったから『そういう人もいるんじゃないですか、人生色々ですからね』って適当に言ったら、『知ってるんですか?』って言い始めて……。その後は、話も変だったし、もう私は仕事に戻ったんですけど、なんかおかしいと思って。
 偶然見たんです、その、中田さんと玉越さんが、シティホテルに入っていく所を。
 違うんです、2人でエレベーターに入っていく所を。もしかしたら客室じゃなくて、最上階の食事に行ったのかもしれなかったけど……。
 ……どう思いますか?」
「どう……」
 宮下はソファの背に肘を置き、その上に頭を置いて天井を眺めた。
「空件数を上げて、それで1万出したことが分からないように、カード会社の奴を言いくるめる……。体を使って」
 的確な宮下の意見に目を閉じる。
「私も……そう思いました。だけど、一つ、疑問が浮かぶんです」
「うん……」
「知ってますか?」
「何を?」
 宮下は完全に守りに入っている……仕方ない。
「幹部とのことです」
「噂はな……」
「大下部長と玉越さんの……不倫です。もし、お金に困っているんなら、その人から貰えばいいのにと思いました」
「……」
 宮下は少し俯く。
「でもきっと、もらうとか貰わないとか、そんな関係じゃないか……もう、その辺りはよく分かりませんけど……」
「うん」
「そう……なんです……ずっとそのことで……いや、3ヶ月くらいか……疑問を抱いていました」
「……」
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