絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「それから江角さんが入社して、いきなり電話がかかってきたかと思ったら、玉越さんのことを……、あの人は体を使ってカード会社の奴を騙して金を持っていってる、自分は本社からそのことを調べるためにここに送り込まれたんだって。
 だからカードの獲得件数が多いと思ってるってことを証言してほしいって言われました。
 それは嫌だって断りました。そしたら……庇うってことは同罪だって……言いたくなかったら、玉越さんのことが知られたくなかったら……言うことを聞いてもらうって。
 けど、最初は一緒に食事に行くとか、そんななんかどうでもいいことばかりで。電話をとってほしいとか、メールを返信してほしいとか、一体何がしたいのか全然分かりませんでした」
「香月を狙ってたんだろ?」
 宮下はまた的を得る。
「……さっき、車の中で服を脱がされかけて……もうダメだと思ったんです」
「なるほどな……」
 宮下はぐるりと首を回して、真上にある照明を見た。ちょっと拘った取り寄せの照明器具。今は誰も掃除しないがために、誇りがしてしまっているのが実に惜しい。
「玉越がカードを使ってギフト券を得て換金していた……。
 その情報は事実だ。本社で捜索をしたのも事実。それをもみ消したのも事実」
「過去形ですか!?」
 香月は大きく反応した。
「大体は過去だな。一度、他店に応援に行った時にもしたらしい。だが、どう考えてもバレる方法だった。獲得件数を上げてはいるが、領収書もないし、ただギフト券が抜かれただけ。
 おそらく、わざと不正行為をした」
「何のために!?」
 香月の切り返しは早い。
「さあ……。その中田って奴がそそのかしたってとこまでは事実だが、玉越の中で大下部長絡みでなんかあったんだろうな……。その辺は、どうも。
 とにかく、今はもうやってない」
「……私が……勝手に……」
「江角は香月と、そういう風にでも、絡めることができるのなら……何だって構わないと思ったんだろうな。香月は江角に利用されただけだよ」
「え……江角さんの言ったことは、全部嘘……?」
「半分くらいは本当かもしれない。事件は事実だからな。だけど、その、言うことを聞いてもらうとか、その辺りは完全に個人の判断だし」
「そうですよね、それは、確かにそう思います……」
「江角に言った方がいい。今度何か仕掛けてきたら、その話が終わったことは知ってますって」
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