夢の途中
ありえない、その言葉が頭の中を何回も駆け巡る。
もしかしたらこれは夢なのではないか、と自分の頬をつねってみたが何も変わらなかった。本当に私は時空を越えてしまったのだろうか。私は一体どうなるの?考えたら切りがなく、だんだん不安になってきて涙が溢れてきてしまった。
「…っ、」
頑張って涙を止めようとごしごしと拭う。知らない地にいきなり居て困惑し、何よりなにがなんだか惠瑠自身わからない。すると女は、そんな惠瑠を見てそっと抱き締めた。身長は惠瑠の方が大きい筈なのに、大きくてとても暖かかった。どこか母のような温かさを感じた。
「あんたも何かあったんやな。大丈夫、この辺に住んでる人はみんな訳ありさ。此処で会ったのも何かの縁、暫くうちにいなさい」
「いっ、いいんですか…?」
「いいもなにも、ほっといてられへんわ。でもうちは遊郭やさかい…せやなあ、裏方の仕事でもしてもらおうかね。それでいいなら来なさい」
「は、はい!もちろんです」
女は優しく微笑むと、惠瑠の頭を撫でた。会ったばかりなのに、とても親切にしてくれたことに惠瑠は感動した。この時代の人は義理と人情というものがあるみたいだ。いつの間にか、涙もとまっていた。
「そういえば、あんた名前は?」
「足立惠瑠」
「へぇ〜、名前は変わっとるけど、日本人みたいな名字なんやなあ。ちなみにうちは、妙(たえ)と言うんや。この辺では、ちとばかり有名なんよ」
お妙さんは得意気に微笑んで、ほなさっそく行こか、と私の腕を掴んで歩き出した。道中、いろいろな事を話し、とりあえず惠瑠は目立つからなるべく店の表には出ないということになった。
店に着くなり、惠瑠を見てたくさんの人が驚いていた。そして、いつの間にか、あの店には異人がいる、とたちまち噂になった。